例外はあるにせよ、こもり気味の低いダミ声シンガーというのは日本のロック・ファンにおおむね人気がないんだよね・・・という説を聞かされたことがある。アメリカン・ロック特有の唱法とも言えるこの「声」(イギリス人のバンドでこういう歌い方をする人はあまり思い浮かばない)、分かりやすい例と言えばブルース・スプリングスティーンやエディ・ヴェダー(パール・ジャム)あたりになるだろうか。というか、ボブ・ディランがそもそもそういう歌い方のパイオニアか。なるほど彼らの人気・影響力が本国と日本ですさまじく格差があるのはそのせいもあるのかもしれないし、好き嫌いが分かれる声ではある。子供の頃ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースが好きだったせいか(?)、筆者は結構いけるクチです。
「Stay Positive」が通算4枚目のアルバムになるミネアポリス出身~現在ブルックリンを拠点にするザ・ホールド・ステディのヴォーカル/リリシスト:クレイグ・フィンもまさにそういう声の持ち主で、上記の仮説に基づけば彼らは日本ではブレイクしにくいってことになるのだろうか?だとしたらもったいないな。しょっぱいオヤジ声で泣ける歌詞とメロディを歌われた時の感動というのは、鬼の目にも涙(別に彼らが無慈悲な人間ってわけじゃないが、たとえとしてね)とでもいうべき独特のカタルシスがある。普段から泣き言を言ってる人間に泣かれても「ハイハイ、分かったよ~」という感じだが、無骨を装う朴念仁/泣きそうにないアルファ・メイルが肩を丸めてそっと涙を拭う姿には、つい心を打たれてしまう。モノクロ時代の黒澤明映画の男性キャラに感情移入するような気分になるのは、彼らの声の中にこだますカウボーイ像にこちらが反応しているからかもしれない。誇りを失くした男性~その反動で意味不明なマチズモに走る男性も多い今の時代、その声はますます貴重になっているように思う。
アメリカのインディ・シーンはもちろんイギリスでも高い評価・支持を受け、好事家バンドからブレイクスルーしてみせた傑作「Boys And Girls In America」(06年)。あの作品で彼らがザ・クラッシュやスプリングスティーン(ひいてはそのルーツにあるザ・フー)を思わせるポエジーで描き出したスモール・タウン・キッズの姿――ショッピング・モールにたむろってはヒマを潰し、飲んだくれ、夜更けの駐車場であやしいクスリを取り交わす彼らは、安酒やドラッグ、博打やパーティでひとときのハイを求めるものの、判で押したように毎朝やってくる現実の重さにやがて押しつぶされていく(宗教の救済やアメリカン・ドリームに乗り損ねた人々とでも言おうか)――はこのアルバムでも健在ながら、語り口はぐっと洗練されたものになっている。タイトルからして象徴的だった前作(そこにグリーン・デイの野心作「American Idiot」およびその兄貴分的存在ハスカー・ドゥ「Zen Arcade」のコンセプト性をだぶらせることも可能だろう。ソウル・アサイラムのデイヴ・パーナーがゲスト参加していたのもミネアポリス魂を感じます)および前々作「Separation Sunday」でのそれは、ホールド・ステディのルーツにあるハスカー・ドゥ(「Flip Your Wig」)やリプレイスメンツ(「Let It Be」)直系のエッジの効いたギター・サウンドと初期アンクル・テュペロ~ウィスキータウンを思わせるワイルドなドライヴで彩られていた。彼らのライヴを初めて観た時「生粋のバー・バンドだなこりゃ!最高!」といたく感動したものだが、とりあえずビール缶のプルトップをプシ!と開けたくなる竹を割ったような爽快な「明日なき暴走」型ロックンロール(実際ベースのギャレンはステージでも飲みまくりで、それも初期のリプレイスメンツみたいだと思った)とそれを援護するパンピンなキーボードは文句なしに超ご機嫌だし、ボブ・ポラード顔負けのアンセミックなコーラスと絶妙なフックには文字通り気持ちよく「酔って」しまう。基本的にシンガロング系の音楽は苦手な方なのだけど、かつてのパブ・ロックやバー・バンド、パワー・ポップのそれはのっぺりしたバラッド演歌とは違いグルーヴがあって踊れるので好き(→ロックパイルとかシン・リジィ、チープ・トリックをご想像ください)。ソングライティングの幅を増しアレンジを磨きこんだ「Boys And~」(ジョン・アグネロのクリアでシャープな音作りも大正解)では特に、彼らの歌は酔いつぶれながらも歌い続け踊り続けるホワイト・アメリカン達に向けられたソウル・ミュージックとでもいうべき域に達していたと思う。
キャラクターやキーになるフレーズ、光景が曲をまたがって登場するなど、同じ舞台/テーマを使った連作バリエーションとも言えるストーリーテリングのため「Stay Positive」も前作・前々作とゆるやかに繋がっている。しかしヒット作を踏襲するばかりでなく、バンドはサウンドのスコープを広げ凝ったアレンジを聴かせてくれる。1曲目からハードコア・パンクばりのスピードが吹き荒れ、2曲目で早くも「In Barlight,She Looked Alright」(笑)のナイス&豪快なコーラスがソウルフルなホーンと共にキック・イン・・・までは定石ながら、バロック風ハープシコードの繊細なクレッシェンドと後打ちギター、NW風のひねり、ピアノとストリングスがリードする壮大なバラッド、バンジョーがダークなトラックから一転「オー・オー・オー!」の雄々しいリフが炸裂するタイトル・トラック(ここからラストまでは怒涛の勢いで素晴らしい!)まで、曲ごとに異なるサウンド・スケープを打ち出していく。キーボードやギター・ソロなど「個人技」がこれまで以上に効果的にフィーチャーされていることからも、バンドがクレイグ・フィンの歌声と叙述的な歌詞の持つエモーショナルなパワーに寄りかかることなくトータルで前に進んでいこうとした様が覗えるし、そのリッチな音のバックドロップはひと夏の思い出(ツェッペリンがもたらす甘美な解放感だけではなく、そこに死のイメージも含めるところがクレイグ・フィンの腕の見せ所)や若き日に抱いた希望を振り返るこのアルバムの寓話めいたトーン/文学性を深めている。
新たな表情におおっと思いつつ、これまでの分かりやすさ・ストレートさがやや恋しくもなる。その洗練されたサウンドに、メジャー移籍後アダルト・ロックに移行していった後期リプレイスメンツを思い起こしもする(それはそれで美しいのだが)。しかしスタイルとテーマ、タイミング(あの頃「ザ・ボス」を正面切ったクラシック・ロックでプレイするバンドは少なかった。ジェシー・マリンの泣けるアルバム「Glitter In The Gutter」より早かった)が完璧に結びついた「Boys And~」を越えるアルバムを生み出そうというのは無理な話だろうし、「優雅に老いること」がテーマにあったというこの作品、バー・バンドの発散はある程度若手に託すことにして、バンドとしての成長にフォーカスしたアルバムと言えるかもしれない。ホールド・ステディのメンバーはぶっちゃけみんなおっちゃんだし、いつまでも酒とドラッグでうさを晴らす郊外のやさぐれワーキング・クラス・キッズの話ばかりしてはいられないのだろう。彼らのブレイクが間違いなくプラスに作用しているThe Gaslight Anthem(こちらはニュー・ジャージー出身)みたいなバンドも注目を集めていることだし、リアルアイムなやさぐれは彼らに任せ、むしろやさぐれたまま大人になりプチ・ブルになってしまった「こどもおとな達」(オレか?!)の問題――ブコウスキーやレイモンド・カーヴァーの主人公が浮かぶ――を歌っていくのかもしれない。Oh Yeah,Life‘s Going On/Long After The Thrill of Living Is Goneと歌ったのはジョン・メレンキャンプだったけど、そういうリアルなセンチメント/表現が「若者のもの」としてパッケージされ売り出されるロックの中で少ないことを思えば(誰も自分がジジイやババアになる日を突きつけられたくはないので)、それでもロックにしがみ続けるこのバンドはやはり愛さずにいられない。
彼らのような「アメリカン・バンド」が70年代の先達(ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズなど)ほど大きなスケールのポピュラリティを本国で獲得できていないのはちょっと切ない。スタジアムを埋めろとは言わないけど、彼らのようにストレートなアメリカン・ライフの歌い手は今ではむしろマニアックなロック・ファンの所有物になっていて(本来の聴き手として想定されているはずの)プア・アメリカに届いていない?イギリスのような「外国」でこのバンドが高く評価されているのは、部外者(日本人である筆者も含む)の「オールド・スクールなアメリカ」「(実在しない)アメリカーナ」への憧憬ゆえ?などちょっと考えてもしまう(それは今に始まった話ではなく、NYパンクからグランジまで繰り返されてきた話なのだけど)。たぶん、実際のアメリカ大衆はホールド・ステディより「American Idol」出身者やケイティ・ペリー、リル・ウェインなんかを聴いているのだろう。がしかし、第三者ゆえの視点というのも絶対に必要!と信じることにしてこのバンドが描くアメリカン・ライフとそこから落伍した者達の生き様を追っていこうと思う。初めて彼らに触れるという人には、(面倒ですが)このアルバムの前の3作を聴いた上でこの最新作にトライしてもらいたいと思います。
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