4ADというレーベルを、そのイメージだけで「簡単に理解できる」なんて思っている人間がいたら、実際できるかどうかやってみればいいと思う。少々誤解を招きがちな「ゴス・ロックの第一人者」というレッテル~レーベル・カラーにも拘らず、イギリスを代表するインディペンデント・レーベルのひとつである彼らは25年以上(!)の長きに亘ってファンタスティックで多彩な作品の数々を送り出し続けてきたのだし、セレブレーションのセカンド「The Modern Tribe」も例に漏れず、そんな「4AD作品」の優れた歴史にを連ねる作品になった。というか、もしかしたらこのアルバムは、4ADがこれまで世に発してきた音楽とその触れ幅を実質的にすべて要約・象徴するような作品、とすら言えるかもしれない。
もともとはボルティモア出身~現在はブルックリンを拠点に活動しているセレブレーションの核となる3人は、その以前はラヴライフというバンドで活動していた。当時の彼らはもっと攻撃的な、パンク・ブルース型のアジを吐き出すロック・ユニットだったが、セレブレーションにおけるアプローチは(前身バンドの味は随所に残しつつも)一歩ポップ寄りに踏み出したもので、そのサウンドは4ADからのデビュー・アルバム「Celebration」(06年)にもはっきりと刻まれている。だが、デビュー・アルバムは決定的なスパークに欠けていた。それは恐らく、演奏そのものは切迫感に満ちた優れたものだったにも拘らず、ソングライティングそのものが甘かったからだと筆者は思っているのだが、前作で物足りなさを残した楽曲面での弱点はこの新しいアルバムにおいて見事な開花を果たし、タイトさを増しつつ聴き手を手っ取り早く引き込もうとするような安易なキャッチーさは避け、それでいて生々しいソウルフルさもちゃんと残っている、成熟した楽曲群を生み出すことになった。また、以前はザラつくような直接性から作品全体のドライヴが引き出されていたのに較べ、今回の彼らはそれだけではなく、堂々たるサウンドのタブローそのものを通して勢いを生み出している。
パワフルなソングライティングはもちろんのこと、前作からの大きな飛躍のひとつとして、もうひとつ感じるのがカトリーナ・フォードのヴォーカルの成長だろう。エッジーでアップ・テンポな楽曲を歌う時の彼女にはローラ・ロジック(エッセンシャル・ロジック)を彷彿させるところすら出てきたし、それ以上に「おおっ!」と思わされるのが、スローなナンバー。トーチ・シンガー的な表情は、これまで彼女が見せてこなかった新たな面だと思う。
1曲目「Evergreen」は、〝ビロードの布に綴られた音の堂々たるオペレッタ〟とでも呼びたい本作の幕を見事に切って落とす。その高尚かつ壮麗な雰囲気は作品全体を通じてがっちりキープされており、中でもシングル・カット必至の名曲「Heartbreak」、そして本作のフィーリングを要約した歌詞〝They don’t know what we have done, they say the world has just begun, to tame the savage heart of man〟を含む「Tame the savage」に、そのムードが強く出ている。とはいえ、バンドは自分達のバックグラウンド/ルーツを完全に断ち切ってしまったわけではない。デイヴィッド・バーガンダー(ドラムス)とショーン・アンタナティス(オルガン)によるリズム・セクションは濃厚なヴードゥー的ビートのごった煮を叩き出しているし、ホーン・セクションの援用で肉付けされた「Hands off my gold」などでは、リズムはフェラ・クティを思わせる堂々たるステップを刻んでいる。
前作に引き続き、このアルバムもTVOTRのデイヴィッド・シーテックがプロダクションの舵を取っており、セレブレーションの作品であるのと同じくらい、これは彼の作品でもあるな・・・とも感じる。この作品におけるデイヴィッド・シーテックのスタイルはいわば「アート寄りのスティーヴ・アルビニ」とでも言うもので、「Surfer Rosa」のドライなタッチと、自ら率いるTVOTRの壮大なソウルフルさを組み合わせることに成功している(そのTVOTRの面々も、本作のセッションに顔を出している)。この作品から聞こえる影響は実に多岐に亘るもので、80年代のシンセ・ロックからNYのアングラ・アフロ・ファンク、そしてスケールの大きいトリフィッズ的カントリーまでが網羅されている。そんなサウンド面の幅広さだけではなく、バンドの編成(男性2人、女性1人)という点からも、この作品を(同じく)デイヴィッド・シーテックが手がけていた頃の初期ヤー・ヤー・ヤーズと比較して論じることも可能かもしれない。しかし、ヤー・ヤー・ヤーズのアルバム・デビュー前の音源がラフでガレージっぽかったのに対し、このアルバムのプロダクションはもっと洗練されているし、詰まるところ、波打つように心に訴えかけてくる。非常にアート臭い作品ではあるけれど、横柄な気取りだったり、くだらないエリート主義とは無縁の音楽――だからこそ、このアルバムにおいてセレブレーションは彼らが内に秘めてきたマルチ・カラー・サウンドを聴き手に力強く提示できているのだし、また本作を本質的にオフ・ビートな、しかし素晴らしいポップ・ジェムとして成り立たせてもいるのだ。
| M | T | W | T | F | S | S |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 01 | 02 | 03 | 04 | |||
| 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 |
| 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
| 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
| 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | ||