Gutter Twins――ピート・ドハティとカール・バラーが聞いたらさぞや悔しがりそうな(笑)ノワールでドゥーム、ロマンチックなユニット名だが、その正体は元アフガン・ウィッグス~現トワイライト・シンガーズのグレッグ・デュリと元スクリーミング・トゥリーズ~ソロ、クィーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジからイゾベル・キャンベルとの「ナンシー&リーごっこ」まで、そのメフィスト的バリトン・ヴォーカルで引っ張りだこのマーク・ラネガン。「90年代オルタナ~グランジきってのカリスマ・フロント・マン夢の顔合わせ」と話題を呼び、AW・ST両者が一時在籍したことのあるサブ・ポップから本作が出たことにちょっとした感慨を抱くUSロック・ファンも少なくないと思うし、どっちも一般的な意味でのイケメンではないものの、音楽への信念と(男の弱さ馬鹿さも含む)パッションを秘めたMen in Blackとして敬愛している筆者としては、ふたりが一緒にタバコをふかしウィスキーを酌み交わす姿を思い浮かべるだけで胸が熱くなったりもする(←我ながら単細胞バカ)。
前バンド時代はシンシナティ/シアトル、ソウルフルなハードコア・パンク/サイケデリック・グランジと拠点も音楽性も異なった両者だが(キャラもグレッグの陽とマークの陰と好対照らしい)、ほぼ同い年で潜ってきたもの・見てきたものも似ている彼らは互いの魂に巣食う暗部への共振を嗅ぎ取っていったのだろう。バイオによればマークが冗談半分で4、5年前「俺とグレッグはガター・ツインズ。ふたりでアルバムを作る」という噂を広めたことから始まったいわば〝瓢箪から駒〟的ユニットらしいが、トワイライト・シンガーズの出世作「Blackberry Belle」(03年)で共演以降コラボは断続的に続いており(中でもEP「A Stitch in Time」収録のマッシヴ・アタックのカヴァー「Live With Me」は彼の数ある客演パフォーマンスの中でも10本指に入る名唱)、グレッグがTSで発揮する独自の嗅覚=ダンス・ミュージックの空間性、ソウル・グルーヴ、スワンプ・ロック、ストリングスや音響系センス(ダーティ・スリー、モグワイなど)、AOR味までミックスし闇の音空間を演出していくサウンド・アレンジャー/仕切り人としての手腕は本作でも冴えている。TSのコントリビューターにしてガター・ツインズの非公式メンバーであるマシアス・シュニーバーガーを筆頭に、トロイ・ヴァン・リューエン(QOTSA)、澄んだ光を招き入れるマルティナ・トプリー‐バードとペトラ・ヘイデン(元ザット・ドッグ)のコーラス、ブライアン・ヤング(ファウンテインズ・オブ・ウェイン)、ジェフ・クライン他多彩な顔ぶれを束ねると同時に、ギター&鍵盤、時にドラムスまで演奏面をがっちりこなし、もちろんソングライティングもマークとガチンコ・・・と文字通り八面六臂の活躍ぶり。「Saturnalia」というのは古いお祭り/祝祭を意味する言葉だそうだが、マーク・ラネガンという名優(USインディ・ミュージック界のウォーレン・オーツというのは誉めすぎ?)の力強い磁力を軸に、グレッグ・デュリのダークなエルロイ的想像力に拍車がかかったようだ。
しかし、そのみなぎりはある意味トゥー・マッチでもある。悲痛なチェロを伴う恨歌①から重いムードが立ち上がり、④のフォーキィ・バラッドが醸すメランコリア、堂々巡りの悪魔の子守唄⑥まで様々な表情が顔を出す前半は特にプロフェッショナルで隙がなく、「1965」の頃を思わせる②のダイナミックなドラマ、バキバキにハード・ロックでかっこいい⑤(鬼才ジョゼフ・アーサーも参加★)にいたっては名作「Gentlemen」の面影すら浮かぶ。TSと異なるオルタナ・ロック的な昂ぶりに往年のグランジ・ファンは泣いて喜びそうだし、40を越えて枯れ始めてもいいはずの両名が昔とった杵柄に立ち返り、オールド・スクールのステイツメンとしてソリッドなロック・レコードを作ってくれたのは頼もしい話ではある。しかし(目下のところの)マークのソロ最新作「Here Comes That Weird Chill」に蠢いていたキャプテン・ビーフハート的アブストラクト・ブルーズ~トム・ウェイツを思わせる映像的かつRAWな音作りを期待していた筆者にとって、グレッグが次々に繰り出す力技は時に息苦しくすら感じられる。そのゴリ押しな強烈さがAWの頃から持ち味ではあったが、しょせんステーキばかり食ってはいられないお茶漬け好きな日本人である自分の胃にはちょっともたれます。
だからだろうか、エレキではなくエレピがリードする⑦以降の後半が湛えるミニマリズムに筆者はよりハマったし、聴き返すことで味が出てくるのもこっち。ソウルセイヴァーズのアルバムでも感じたことだが、マークの歌声は引き算サウンドの中でも充分成り立つくらい濃くブルータルで暗く、存在感がある。QOTSAの傑作「R指定」のタフに引き絞られたサウンドがハマったのもそのせいだろうし、グレッグ自身その声のパワーは承知しているのだろう、このアルバムでは百歩譲ってマークの歌を前面に推し出し気味(彼もいいヴォーカリストなんだけどね)。だが、この作品は総体的に言えば1+1=2であり、1+1=3の「跳躍」には残念ながら至らなかったと思う。その「2」ですら充分パワフルだし(笑)、そんじょそこらの「ロック」アルバムが霞むほど聴きごたえのある作品なので多くの人に聴いてもらいたいが、これだけの鬼才が顔を合わせたらやはりプラス・アルファを期待したくなるってものでしょう。もしもこのユニットでまた作品を作ることになったら、グレッグのタランティーノ的性向(つい我慢できず自作にカメオ出演→自爆。それも愛すべき点なんだけどね)をぎりぎりまで抑え、マークを「狩人の夜」のロバート・ミッチャムになぞらえて怖美しいゴシック世界をがっつり作り出してほしいと思う。マークよりグレッグが好きな人は逆の意見を持つかもしれないけど、たとえ腰で繋がった(精神的)双生児だとしても脳は違うわけで、どちらかが主導権を握った方がいい(筆者にしても本作のサウンド/プロデュース面でのグレッグの才覚は高く買っている)。まあ、このふたりを御すことのできる人なんて、どこにもいないのかもしれないが。にしても、マーク・ラネガンの声に対する需要は尽きそうにない。ファンとしては嬉しいものの、〝それっぽい雰囲気を出すため〟の便利なツールに陥らないように今後コラボは注意深くセレクトしてほしいなあ、とも思う(先述のソウルセイヴァーズのアルバムは愛聴したけれど、ストーンズ「No Expectations」のカヴァーはハマりすぎで陳腐ですらある)。ジョニー・キャッシュにリック・ルービンがいたように、あるいはニック・ケイヴにバッド・シーズがいるように、マークにも優秀な参謀が付いてくれることを祈ります。
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