■ラウンド4■
The Kills/「Midnight Boom」
口上/2000年に結成された英米/男女デュオ、ザ・キルズ。アート・パンク・バンドでの活動に嫌気がさしていたジェイミー・ヒンスとアリソン・モスハートの両名はヴェルヴェット・アンダーグラウンドと70年代パンクへの愛をきっかけに意気投合、これまでにガレージ・パンク作「Keep On Your Mean Side」(03年)、ミニマル・ポップ「No Wow」(05年)を上梓しインディ・ロック界一セクシーなふたり組と称されてきた。06年1月からミシガンでサードのレコーディングに着手した彼らは、試行錯誤の果てに60年代のアメリカの子供達を素材にしたドキュメンタリー映画等にインスパイアされながらソングライティングを続け、ドラムをプログラムしていった。ビートをより大胆かつワイルドに補強するため招かれたArmani XXXchange(ジェイミーとアリソンは彼が手掛けたスパンク・ロックのアルバムのファン)の参入で、〝前を向き、コンセプトにあまり捕らわれない〟アルバム「Midnight Boom」は徐々に形を成していった・・・
AB―まず白状してしまうと、この人達はどんなにがんばっても好きになれないバンドのひとつです。
C―そう?俺は最初のEPとファースト・アルバムは好きだったけどな。
AB―うーん。VU流ミニマリズム、ブルース・パンク、ラフでスカスカな音作り、ストリートな佇まい・・・自分が好きになりそうな要素は揃ってるんだけど、どうもダメ。良さが理解できない。ライヴを観れば一発で好きになると言われたからこれまで2回トライしたけども、我ながら不思議なくらい拒否反応が起きちゃう。デザイナー・ガレージ・ロックじゃないかという疑惑を払拭できない。
C―あの擬似セックスめいたライヴ・パフォーマンスはナルシストの極みだしね。
AB―でもジャック&メグみたいなパッションの火花は飛び散ってないよ。とても真剣にプレイしているなとは思ったけど、Tシャツからバサバサに振り乱した髪、タバコ片手のポーズに至るまで隙のない「乱れ方」というか、ファッション誌のフォト・シュートみたいで振り付けされた予定調和に思えちゃう。ふたりとも自己愛が強すぎ?
C―・・・要は女の子がかっこよくてかわいいから妬いてるんじゃないの?
AB―彼女のベイビーフェイスがごっつキュートなのは認めるし、ATPで観た時もスタイルいいなあ~足長いな~羨まし~と感心したよ。けどきれいなお人形さんを眺めてるみたいでカリスマや磁力は感じないし、だから嫉妬する気も起こらないっつう。そもそもVVとホテルってネーミングを聞いた瞬間ギャフンと思わなかった?
C―さすがに自分達でもあまりにスカしてるって気付いたんだろ。今回からプレスの多くでも本名のアリソンとジェイミー表記になってるし。
AB―あーそれは良かった!では可能な限り先入観を捨てて聴くことにしまーす。
C―これまたジーズ・ニュー・ピューリタンズ同様、ガレージ・ロックをモダンなR&Bでいじったアプローチだね。流行なの?
AB―クラブとインディのクロスオーヴァーは増えたよね。リミックスとか多いけど、「Loaded」みたいな名作はあんまりないような・・・
C―TNPよりこのアルバムの方が歌ベースでトラディショナルなロックだけど、ループや切れのいいビート&エディット、咳払いやハンド・クラッピングなんかも混ぜてこれまでよりカラフルで遊び心のあるレコードになってる。
AB―昔からのファンは戸惑うかもしれないけど、バンドがノってやってるのが伝わってくるのはいい。スパンク・ロック「Yo Yo Yo」でロック・ファンにも認知されたアレックス・エプトンがビート・メイクに加担しているそう。
C―へえ。エレクトロ~ヒップホップ畑との意外な顔合わせで渇を入れたってことか。スーサイドのデス・ビートやミニマリズムに寄った前作「No Wow」からのロジカルな発展とも言えるけど、このアルバムの方が多彩でメリハリがある。⑤とか⑨、⑩のADD気味でマニックなリズムはかっこいいし、ダンス畑のクリエイターの自由な発想に触発されたってところか。
AB―いい意味でも悪い意味でもふたりだけの世界で完結しちゃってそうだから、たまに外部の刺激を受けるのは大事なのでは?アリソンのヴォーカルが前面に出ていて掴みもいいし、拗ねた娘からメランコリーまで表情も豊か。ふくれっ面より笑顔が似合う子だからね。ジェイミーの声はぶっちゃけ弱いんだし、いっそ彼女をフロント・ウーマンに立てて彼は裏方に徹した方がいいんじゃないかなぁ?あくまで平等&対等がモットーのバンドみたいだからそれは難しいんだろうけども、誰かがプロデュースしてあげた方が良さそう。
C―しかしまあ、このバンドのレコードを聴いてM.I.A.やピーチズを思い起こすことになるとはね・・・。
AB―でも歌い方はまだ「ライトなPJハーヴェイ」の影から抜け切ってないな。
C―それは誉めすぎだろう。よくてせいぜいカレン・Oだよ。
AB―ははは!さすがに今回で3枚目だし、バンドとしてもこれまでと同様の剥き出しのブルース・ロック・フォーミュラに限界を感じてたのかもね。②の歌詞に「I want you to be crazy cause you‘re boring when you’re straight」という一節があるのがすごく皮肉だなと思ったんだけど、キルズ自身が生真面目なアート・ロック学徒で、破天荒でもなんでもない、要するに羽目をはずせない人達なんじゃないかな。だからどう逆立ちしたって天然にブルータルでファニーで爆裂なロイヤル・トラックス(RTXじゃないよ)にはなれないわけで、その意味でこのシフト・チェンジは正解ではないでしょうか。
C―ジェニファーとニールのロックンロール・グルーヴは唯一無二。真似しようったってあのケミストリーは真似できないよ。カオスとディスオーダーの象徴、ロックのクリシェと思われがちだけど、ニールのギター・センスとプロデューサーとしての力量はすさまじかったからね。ハウリング・ヘックスのアルバムとか、天才的だしな。
AB―そこにジェニファーの天性のカンが加わって鬼に金棒なアダム&イヴだった、と。たとえばこの作品を聴いていると「Pound For Pound」あたりの後期ロイヤル・トラックスのねじれたファンクネスが頭に浮かぶけど、ヒップホップ人脈を援用しなくたって死ぬほどグルーヴィなレコードだったもんね。あのふたりはどっちも歌えたし、音楽性の幅も広かった。よく思うんだけど、ベーシックなロックンロールほど「持って生まれた感性」がものを言うのではないか?と。センスがあるかないかってことで、センスがない人はどんなに学習してもどんなにがんばっても、やっぱりどこか無理がある
C―ロイヤル・トラックスはある意味究極だし、比較するのは可哀相だろう。ジョニー・ロットンは本当に頭のいい男だけど、ジョニー・サンダースにはなれない、そういうことかな。
AB―でもトラッシュで手に負えないロイヤル・トラックスに較べてキルズはルックスもずっと小奇麗で一般受けするだろうし、ロック・ヒストリーもよく勉強していてコマーシャルなパッケージとしては優秀。もっと人気が出てもよさそうなところを敢えて避けてアングラ風で小難しいことをやってきたフシすらあるけど、フガジじゃあるまいし、このバンドが売れたって誰も「セルアウト」とは言わないと思うんだよね。だから自意識過剰になる必要はないし、②⑤⑩みたいにシャープでクセになるポップ・ソングをもっとやって人気者になってもいいんじゃないかな。
C―ビート技のおかげでぱっと聴き変わったなと感じたけど、何度か聴いたら③⑦⑫あたりはあんまり変わってないよね。このバンドはヴェルヴェッツなりキャプテン・ビーフハートなりスーサイドなりパティ・スミスなり自分達の憧れのアーティストや影響に忠実すぎるから、スタイルや形式に縛られがちなのかもな。
AB―その忠誠心は素晴らしいけど、どこからパーツを引っ張ってきてどうやって組み立てたものなのかありありと見て取れるのはねぇ。今回にしてもジャケットにハーバート・セルビー・ジュニアの本が写り込んでたり、相変らずいい意味で学生っぽい&ちょっと恥ずかしい。
C―点が辛いな。やっぱ妬いてるんじゃない?
AB―いや、かわいい女の子は好きだってば!たぶん実際に会ったら話が合う人達のような気がするし、根暗なロック好き同士、趣味も合いそう。ただ、自分でも知っていることばかりだったらオマージュとしてよくできているな~と思えても感動したり驚き・ショックは受けないものでしょう。映画「Factory Girl」を観た時がっかりを通り越してイライラしたんだけど、あの気分をちょっと思い出したな。〝これだったら伝記読んで「Ciao Manhattan」や「Poor Little Rich Girl」を観れば十分じゃん、改めてイーディのストーリーを語り直す必然がどこにあったの?〟って感じずにいられなかったから。あの映画の救いはガイ・ピアースだったけど、今回はそれがアレックス・エプトンだったってことで。
C―(笑)近親憎悪に近いんじゃない?俺はヴェルヴェッツは大好きだけど、ファクトリーの猛烈なマニアってわけじゃないから別にどうとも思わないなー。だったら観なけりゃいいんだし。
AB―でもやっぱり宣伝文句につられて観ちゃうのよ~。
C―ファンの悲しい性だね。アンディ・ウォーホルの思う壺。キルズも同じことで、大半の人がこれ聴いて素直に「かっこいい!」と思うんじゃない?元ネタにこだわってとやかく言うのはお前みたいなごく一部のオタクだけだろう。
AB―とにかく、今作を契機にキルズがもっと潔く自らの呪縛を断ち切って好き勝手にやってくれたらいいと思う。
C―個性的なポップ・レコードを作るセンスがあることは、この作品の半分で証明されたからね。
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