自分にとって音楽の好きな点、そして音楽に求めるものというのは何だろう。それはたぶん革新的で挑戦的、オリジナリティがあるものか、前例がないと思えるほど新しい!と感じるものだと思う。あるいは途方もなくプリミティヴでローファイなトーンを持つものだったり、聴きながら指をスナップしたくなるほどノリのいいもの・・・または真の意味での技と真摯さから生み出されたもの、ということになるだろうか。
というわけで、僕はネオン・ネオンのこのファースト・アルバムを前にしてやや厳しい立場に立たされた気分だったりする。このアルバムは遊び人のためのラグジャリーなスーパー・カーをデザインした実在のアメリカ人=ジョン・デロリアンを主人公に、当時セレブにのしあがった彼の栄華と凋落の人生を描きながらレトロ・フューチャー・サウンドを展開する一種のコンセプト・アルバムになっている。80年代的世界を再構築してみせたのは、SFAのリーダーであるグリフ・リースとブライアン〝ブーム・ビップ〟・ホロン。これまで素晴らしい音楽的血筋とディスコグラフィを誇ってきた両者だけに、彼らの手にかかったものなら間違いなし・何であれ聴く価値がある――売り文句としては、さしずめこんな調子になるんだろうか?だがブーム・ビップのムーディで内省的なセカンド「Blue Eyed in The Red Room」収録の「Do‘s and Don’ts」におけるグリフとのコラボレーション、あのレベルの内容を期待してNNを聴こうとする向きにとって、この作品は肩透かしを食らう結果になると思う。
本作において、ふたりは身も蓋もない自らの子供時代のノスタルジーを全開させている。やたらとシャイニーなシンセ・サウンド、コカインまみれのセックス、いきりたった肩パッド・ファッション、ユーロ・ディスコ調のパワー・バラッド・・・と、デザイナー・ファッション隆盛期の80年代が放つ身震いするようなクサさ・ダサさがこれでもかと顔を並べているが、あの時代を実際通過してきた者としてはあれを再び体験するのはトゥー・マッチだなあ~と感じてしまう。そんなアイロニーに満ちたレコードだし、それゆえ現代の「ポスト・アイロニーが行き過ぎて逆にアイロニック」な若い世代の感覚にこのアルバムは間違いなくハマるんだろうと思うが、作品として真面目に受け取るのはちょっと無理がある。このアルバムのサウンドそのものが1986年のとっくの昔に寿命をまっとうしているわけだし、イコール作品としての賞味期間も短いってもんじゃないんだろうか。
では、この作品に聴きどころはないのか?と問われれば、答えはイエスでありノーだと思う。レコードとしては実に良くプロデュースされた出来のいい作品だし、面白おかしくチャーミングな聴体験なのは間違いない。たとえばYouTubeでフィル・オーキーとジョルジオ・モロダーの「Together In Electric Dreams」の無邪気極まりないプロモ・ビデオを見返すたびつい笑みが浮かぶのを抑えられないのと同じようなもので、時代としてはレーガンとサッチャーの巨大なエコノミズム政策に牛耳られ根深いシニシズムに侵されていたにも拘らず、80年代には甘い夢をむさぼっているようなふわふわとナイーヴな面もあったっけ、ということを思い起こさせてくれる。
ピン・ヒールにクローム色のフェティッシュなアルバム・ジャケットも「内実より型重視」の時代を扱った本作のテーマにぴったりだし、この作品に興味を抱くきっかけとしては充分だろう。指をパチパチ弾きたくなるようなノリのいいグルーヴ・トラックもあって、その意味では先述した僕にとっての「いい音楽」の基準にもちゃんと当てはまる。実際、このアルバムの僕にとってのベストなトラック=思わず踊り出さずにいられないグレイトな曲と言ったらエレクトロ・ヒップホップ勢(スパンク・ロック、ヨー・マジェスティ、ファットリップ)をフィーチャリングした「Trick For Treat」「Sweat Shop」「Luxury Pool」だったりする。
しかしヒップホップ系曲以外の本作のトラックはあまりにトーンがかけ離れていて、1枚の作品の中にもうひとつ別のレコードが存在するような感覚にさえ陥る。それらの楽曲にも「おっ」と思わせるところはあるし、アルバム冒頭の②「Dream Cars」や「Stainless Style」を聴くと期待も募る。しかしその興奮も「Raquel」「Belfast」「Michael Douglas」といったユル目で物足りない楽曲で帳消しにされてしまうのは残念。まさに「実質よりスタイル」というところだろうか。とはいえ、「I Told Her On Alderan」はサイバー化したシンディ・ローパー?なんて形容が思い浮かぶキャッチーな曲だし(もちろん肯定的な意味でだが)、それを思えば「I Drove All Night」を思わせるリフもぴったりだなぁと頷ける。シンセをたっぷり使ったバブルガム・ポップ・チューンの秀作と言えるしすごくクレバーな曲でもあるが、このアルバムの大半を占めているさほど記憶に残らない軽めな楽曲の比重を覆すまでには至っていない。
もしかしたら、いずれ「Dream Cars:The Musical」という芝居でも制作されることになって、クライマックスでジョン・デロリアン役がスモークとレーザー光線の飛び交う中ステージに登場する・・・なんてハイライト場面のある舞台のBGM音楽としてだったらこの作品はぴったり機能するんじゃないかと思う。しかし今の段階ではこのアルバムにそれは臨めないし、何回か繰り返し聴くうち魅力も薄れていってしまう。もちろん音楽ファン的な見地から言えばブーム・ビップとグリフのコラボであるこの作品はそれだけでもバズを巻き起こすに値するものかもしれないが、ファッション雑誌や一般向け音楽誌が書き立てているほど「優れてクラシックなアルバム」ではないだろう。
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