「チョコレート工場の秘密」他で知られるロアルド・ダールは、一見ポップで甘い表層をめくると、実はその奥にはもっとダークで狂気すら帯びた何かが潜んでいる・・・というスタイル(「奇妙な味」と形容される)を得意とする作家だ。ナールズ・バークレーの新作セカンドも、聴き手に同様の感慨をもたらす作品と言えるだろう。評論家の多くがこの作品を前作「St Elswhere」の焼き直しであり、あまり進歩の見られないアルバム、としている。しかし僕はその論調に異議を唱えたい。さりげなく微妙ながら2枚には違いがあるし、新作「The Odd Couple」はより完成度の高い、かつ暗さを増した作品になっている。
前作と同じくらい、このアルバムにもキッチュ味と不気味さが共存している。しかしこのレコードではチョコレート工場の「秘密の」内部を見学するために門が思い切りよく開放されていて、それゆえパーソナルなレベルで作者の内面を物語る、内省的なトーンの作品になっている。ファースト・アルバムで彼らが繰り広げた仮面舞踏会用のコスチュームは姿を消し、その代わり聴き手は作り手のソウルの内面へ案内され、それを凝視させられることになる。
デンジャー・マウスはこのアルバムにおいてシー・ローのヴォーカルを見事に活かすと同時に、その声のパワーに見合うだけのサウンド取捨選択・編集の妙技――この男は山のようなレコード・コレクションを誇る人間なのだ――を披露している。優れたフロント・マンというのは誰もそうなのだが、シー・ローもその例に漏れず様々なキャラクターを達者に演じていく。甘ったるいロマンチストかと思えばサイケデリックな予言者へ、そしてソウルなシャウターへと、彼はまたたきする間に表情を変えていく。一方歌詞に関しては、今回はよりむき出しの、裸のソウルが綴られている。しかしそうやって顔を出す真情やそこから聴き手が受け取る意外な発見も、この作品が基本的には(現代的なサイケデリック・キャンディの形をとった)ポップ・ミュージックである点を妨げるものではない。
ジャングルの喧騒と気持ち悪いフルートが鳴る「She Knows」は、ムーディな雰囲気を和らげるようにグルーヴィなフィンガー・スナップが添えられている。デイヴィッド・アクセルロッドとエレクトリック・プルーンズの奇作コラボ「Mass In Minor」からそのままパクってきたんじゃ?とすら思わせる「No Time」でのシー・ローの模倣ぶりは大したものだし、「Who‘s Gonna Save My Soul」はモータウンのサイケデリック・ソウルを牽引したバラット・ストロング/ノーマン・ウィットフィールドのスタイルを彷彿させる出来だ。
しかしチョコレートのアソート箱を受け取るのと同じで、このアルバムにも誰からもそっぽを向かれ、最後の最後まで箱の中に残ってしまうような楽曲はある。たとえば「Whatever」は明らかにそうした類いの(意図的にそういう曲を混ぜているのだろうが)大した印象を残さない曲だし、「Would Be Killer」に至っては――トウィンクのカルト・サイケ作「Think Pink」をサンプリングしたセンスは高く買うが――「キラー・チューン」どころか残念ながら「フィラー(詰め物)・チューン」に終わっている。しかし美味しくないチョコレートに出くわす瞬間は実際稀で、この作品には優れた音塊がたっぷり詰められている。中でもベストな2曲のうちのひとつである、「Blind Mary」。さながらお化け屋敷のメリー・ゴーラウンドを思わせるこの曲は相当不気味でぞっとさせられもするが、たとえば「目の見えない彼女は僕の醜さを知る由もない」というリリックはこのアルバムでよりオープンになった歌詞面における新たな率直さを提示したものだろう。もう1曲のずば抜けたトラックである「Open Book」は、風変わりなストンプ・ビート、時間軸をぐーっと引き伸ばすようなストリングスの響きを伴い、シー・ローが暴風じみた迫力で腹の底からの叫びを聞かせてくれる。世界的なスマッシュ・ヒットとなった「Crazy」ほど即効型で分かりやすくはないし、この曲がシングル・カットされる可能性は低いのかもしれない。しかし「Crazy」並みのパンチを持つこのトラック、いつか7インチとしてカットされるにふさわしい優れた楽曲だろう。
このレコードの主役は、実はシー・ローなのだと思う。多くが二人称の形式で語られているものの、この作品で彼は自らの過去の苦悩をひもとくと同時に、自己批判も躊躇なく行なっている。この作品が長く愛されるクラシックな定番菓子になっていくのか、あるいはすぐに味のなくなるサイケ色の風船ガムで終わるのか、まずは彼らの今後を見守ろうではないか。
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