アニマル・コレクティヴ史上、1つのターニングポイントとなる傑作が誕生したといっていいだろう。ぶっちゃけた話、前作の『Feels』・『Sung Tongs』に関しては確かに音楽系メディアやマニアックなファンの間では評価がとても高かったと思うが(ピッチフォークではそれぞれ9/10点・8.9/10点と共に高得点)、正直な所私はいまいちのめり込めなくて終わってしまった。理由はただ一つ、彼らの音楽は難解な部分があり、比較的ポップな音楽が好きな私にとっては取っ付き難くて聴き込む事ができなかったのだ。しかし、今作ではその難解さが薄まっているのにも関わらず、彼らの世界観はより濃厚となっている。これは普通のアーティストにはできないと思うし、それを難なくやってのけた彼らは素晴らしいの一言に尽きるのだ。いや、ほんとよくぞやってくれた!といってあげたい。
彼らの音楽に関するマニアックさは相当なものだ。自ら”ギーク”(日本語的にいうと、技術系オタク)と名乗り、エイヴィーとノアはother music(NYにあるディープな日本バンドものも置いてあるインディーレコ屋)の元スタッフであり、他メンバーもそのマニアックなレコ屋の常連であったなど自他共に認める音楽オタクだ。そんな彼らが好む音楽は幅広く、Black DiceにVashti Bunyanといった今までにアニコレとも関連があるアーティストから、White Noise(69年にリリースした衝撃的ファースト・アルバムが今でも一部カルト的人気を誇る、BBCのサウンド・エンジニア他による実験的なスタジオ・プロジェクト)にミニマル・テクノのOlaf Dettinger、そしてJ Dillaといったヒップホップからアフリカの民族音楽まで、様々なジャンルながらも良質で奥深いアーティストから影響を受けている。私にとっては影響されたアーティストのラインナップを見ているだけでもなんだか感心する一方だが、彼らはそれらの音楽から得た知識や情報をジャンル・レスに一緒に飲み込み、混沌とした胃の中で全てを消化しようとしているのだから、凡人にはできない技をよくもまぁやってのけるよなと思ってしまう。
そんな彼らが、”アニマル・コレクティヴ”としてこの世に名を広めたのが5作目となる『Sung Tongs』であった。ファースト・アルバムリリース時からコアな音楽ファンの間では注目を浴びていたのだが、ちょうどLighting BoltやBlack Dice、LiarsなどといったアヴァンギャルドなUSアンダーグラウンド・シーンが盛り上がっている中に、エクスペリメンタルなフォーキーサウンドをベースにしつつもノイズやポップの要素も交えた『Sung Tongs』がリリースされた事は実にタイムリーであり、その名を広める事ともなった。そして翌年(2005年)にリリースされた『Feels』では、同時期にDevendra BanhartやVashti Bunyanなどがアルバムをリリースした事もあって、”フリー・フォーク”と呼ばれる音楽シーンの真っ只中にいた。しかし、彼らの音に関する探究心は前作からさらに飛躍を増しており、エレクトロ・アフリカ音楽・サイケデリックなどの要素もいれて、もはやジャンル・レスで様々な音楽の雑多性を持ちつつも、彼ら独自の世界観を明確に打ち出す事に成功した。この事により、彼らが”フリー・フォークシーン”の中でも唯一無ニのポジションを確立させていた事はわかるだろう。
そして今作『Strawberry Jam』。結果的に言えば、今までで一番ポップになったアルバムだ。しかし、おもしろい事に本人達は全くもってポップなアルバムを作ろうとしたわけではなく、「むしろ前作より難解にしようとしたよ」というほどだ。だが、今作ではほとんどボーカルにエフェクトをかけずサイケデリックなギターも控えめになり、その代わり”アニマル・コレクティヴ”独自のメロディ・ラインが前面に出て、はっきりと楽曲の先導をきっている。これには正直な所驚いた。今までのアニコレはボーカルも楽器の一部として扱うような使い方が印象的で、そこが彼らのアヴァンギャルドさを増している部分でもあった(=コアな音楽ファン以外にしてみれば、ここが聴きにくさを増している所でもあった訳だが)。そんな彼らが今作ではいわゆるポップ・ミュージックにおきまりともいえるボーカルのメロディを前面に出し、ギターを含めたサイケデリックさを減らして楽曲の取っ付き易さを増している。結果的にそうなってしまった事であれ、これはリスナーにとっての敷居が低くなったという事で、今まで取っ付き難かった私も思わず聴き込んでしまった。そしてわかったのだが、彼らの音楽はポップさが増しても斬新さは衰えていなく、今まで聴いた事がないカラフルな音の数々に奇声を伴うトリッピーな独自のメロディは、前作とはまた違う新しい世界を見るようで、思わず彼らの斬新な世界に惹き込まれてしまった。遅ればせながら、なんだよこんなにおもしろい音楽を作っていたのかよ!と思ってしまった位だ。
今作がさらに素晴らしいのは、音楽マニアの彼らが、孤高の芸術家の様に内向的に我が道を突き進んでますます大衆の理解が難しい域にいってしまうのではなく、様々な人から愛される芸術家の様に作品に深い意味合いを込めながらも大衆とコミュニケーションをとろうと外交的に表現をしている所だ。どんなに音楽のマニアックさを持っていても自己満足で終わる内向性しか持たない作品であれば、CDとして世界的にリリースする価値はない。しかし、今作は敷居を低くして、より多くの人に聴いて貰える作品となっている。彼らが意識的にではなく自然にそうしているのであれば、それは尚更素晴らしい事だ。きっと今作は新たな名刺代わりのアルバムとして機能してくれる事だろう。
さて、最後に彼らの最近の活動をちょこっと書いておくと、現在はUKやフランスなどのヨーロッパ方面とアメリカを中心としたツアーに出ている。だが、このツアーはディーキンを抜かした3人で行なっていて、ディーキン本人は「お休みしたいから」といってツアーには参加していない。誤解を招くかもしれないので書いておくが、決して仲が悪くなったからとかではなく、ディーキン曰く、ディーキン以外の3人は既に所帯を持って落ち着いているのに、自分は『Feels』以降は忙しくて住家さえままならない状態だったので、ここら辺でお休みをとって落ち着かせたいのだとか。アニコレファンの人であれば知っている事だと思うが、アニマル・コレクティヴはエイヴィーとベアの2人で活動している時もあれば、今作のように4人全員で活動する事もあるなど、非常に流動的でユニークなバンドである。従って、普通であれば4人全員で作ったアルバムを引っさげてツアーを廻るのだから参加しろよ!と言いそうなところ、「別にお休みしてていいよー」という感じに自由にゆるくできるのだ。そんな自由なアニマル・コレクティヴは今後もマイペースながらにも素晴らしい音楽を届けてくれる事だろう。
アニマル・コレクティヴ「Strawberry Jam」を脱兎ゲット!
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