アルバム・リリース前のバズや話題も少し落ち着いたことだし、ヴァンパイア・ウィークエンドのデビュー作をちゃんと評価するのに充分なくらい聴きこんだだろう、と自分でも自負している。というわけで、ハイプに油を注ぐつもりは僕には一切ないと断った上で書かせてもらうと――この作品は歴史に残るベスト・デビュー・アルバムだと思う。ストロークスの「Is This It」に余裕で匹敵する内容だし、フガジのファーストEPがシーンにもたらした新鮮な息吹を思い起こしもする。また、「ザ・スミス」と同じくらい巧みな言葉使いのセンスを備えた素晴らしい作品でもある。というか、このレコードは『ポップ・ミュージックが死んだ緊急時の際、壊して開けてください』と書かれたガラスの箱に収められて発表されるべきじゃないかとマジに思う。
アルバムに先駆けて発表されたシングル群「Cape Cod Kwassa Kwassa」「Mansard Roof」「A Punk」は早くもクラシックの域に達していて、インディ・ポップの古典曲と並べてプレイしても何の遜色もない(これらの楽曲をサブウェイ・セクトの「Split Up the Money」とミスター・ブローのグルーヴ・インスト傑作「Groovin with Mr Bloe」の間に挟んで聴いてみえば分かるはず!)。
というわけで既発シングル群はすべてこのアルバムに収録されているし、実に作品全体の四分の一を占めているという点に不満を並べる人間もいるかもしれない。しかしあれだけの質を誇る楽曲を、もう廃盤になってしまった7インチのみに留めておくのはあまりにもったいない話ってもんでしょう!とはいえ、このアルバムの収録曲は実質すべてシングル・カット可能なクオリティを誇っているんだからすごい話。かすかにスキップするハートのときめきを綴ってみせるラヴ・レター「Bryn」、リバティーンズ期のピート・ドハティを思わせる切ない恋心がにじむ「Campus」、「Oxford Comma」の生意気とすら思えてくるジャストで精確なビートと、どれも素晴らしい出来だ。
このバンドのリーダー的存在であるエズラ・コーニグは、優れたフロント・マンでもある。若さに似合わずクリーンな自信にあふれ、プレッピー・ルックに身を包みクラシック音楽の素養も感じさせる彼は、しかし文化や社会に存在する様々な境界線を越えていく自然なチャームの持ち主だったりする。誰でも親しみやすさを感じずにいらないそのナイス・ガイぶりのおかげで、このバンドはスノッブな坊ちゃんバンドになりかねないところをちゃんと回避しているのだ。たとえば「M79」に響き渡る室内管弦楽とハープシコードの音色は、下手したら聴き手の多くを遠ざけかねないもの。しかしヴァンパイア・ウィークエンドは、いまどき社交界の舞踏会くらいでしか耳にしないようなあのサウンドを、よりモダンで広い世界へと押し上げている。
リズム・セクションも、タイトでありながらルーズさも備えた優れたリズム隊の典型だったりする。快活なオルガン・リフがチャーミングにトップ・ビートを刻む中、ドラムは元気にポゴ・ダンスを繰り広げ、ベースはレゲエ・ビートを刻んでいく。このビートのコンビネーションが生む饒舌なリリシズムとアフロ・ビートの影響に、ついザ・クラッシュのトッパー・ヒードン&ポール・シムノンを連想せずにいられない。アフリカのハイ・ライフ・ミュージックとチアフルなムードが、彼らのビートをエッジーなものにしているのだ。
時代が違えばラフ・トレードはこのバンドと即契約していたはずだし、デニス・ボヴェル(レゲエ~ラヴァーズ・ロックのプロデューサー。ポップ・グループ、ザ・スリッツ、リントン・クウェシ・ジョンソンらとのコラボでも知られる)がこのアルバムをプロデュースしていたかもしれない――なーんてパラレル・ワールドの夢想はさておき、まずはこの現在進行形のポップ・ジェムをエンジョイしようと思う。駄作だらけのポップの海原に生まれた正真正銘のこの傑作は、30分のポップ・ヘヴンを耳にもたらしてくれるはずだ。(BY Captain)
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08年は素敵な音楽と巡り会える年になりそうだな(ルンルン♪)。なーんて短絡的な考え方かもしれないけど、新年早々こんなにブリリアントな作品が登場するんだから実に幸先がいい!→この調子で佳作がどんどん出てくる1年になるかも・・・とつい思ってしまう。既に聴いた人も多いだろうし、メディアがさんざん絶賛しているので聴く前からウンザリ、なんて人すらいるかもしれない。しかしヴァンパイア・ウィークエンドのデビュー作、これはたぶん今年のベスト・ポップ・レコードだ。
ニューヨーク出身:コロンビア大学生だった彼らは、ブルックリン・インディ界隈のここしばらくのキーワードのひとつであるアフロ・ビートやレゲエ・リズムを咀嚼し、ポール・サイモン「グレイスランド」ばりのヒューマンな鼓動が波打つあでやかな職人ポップ・ソングの数々を編み上げている。大きな視点で考えれば、彼らはワールド・ミュージックやダブへと腕を広げていった70年代末ポスト・パンク~ニュー・ウェイヴの非ロック志向(および再構築のセンス)と30年近い歳月を経てチャネリングしている今風なバンドのひとつと言えるし、よく「同期生」にあげられるYeasayerやMGMTといったNYアート・ロック有望株達のちゃんぽんで奔放なミクスチャー感覚とも根底では繋がっていると思う(本人達はこの比較をあまり喜んでいないけどね)。
しかしヴァンパイア・ウィークエンドが際立っているのは、リズムに対する柔軟な感性や実験精神を存分に発揮しながら、それをこれ見よがしにひけらかすことなくあくまでさりげなく着こなすシャープな編集センス~取捨択一できるスマートさがあるからだと思う。風変わりなファッションや奇抜なヘアスタイルといったテクノ・トライバル型フリークネスを打ち出すバンドも好きだが、そうしたバンドはアイデアやメロディの乏しさを補うために何層も音やビートを重ねたりエフェクトをかけたりするうち、なんとな~く気持ちのいいサイケデリックという曖昧でもわもわした世界に落ち着きがち(クラウト・ロックの反復性が生むドラッギーな覚醒にちょっと似ているが、あちらはミニマリズムを信奉する確信犯です)。しかしラルフ・ローレンのポロ・シャツにデッキ・シューズという何の変哲もないルックスを誇るヴァンパイア・ウィークエンドの音作りに、安易な思いつきや偶然のノリから生じる曖昧さは一切なかったりする。
エズラ・コーニグの内気そうなヴォーカルとウルトラ甘酸っぱい東海岸アイヴィー・リーグの坊ちゃん歌詞はリリカルなウェス・アンダーソン・キャラ的人柄を忍ばせてやまないし(この人、普段もダッフル・コートを着ているくらいTWEEでポッシュ)、⑧でのふにゃけたバッキング・ヴォーカル(笑)や今風レフト・バンクとでも言いたいバロック・サウンドのレトロなスパイス、あくまで軽さ重視のサウンドの選び方など、この作品はふわふわしたパステル・ピーチの気泡に包まれている(ルイ・ヴィトンとベネトンで韻を踏むTeen VOGUE的お茶目なユーモア・センスも憎いっ)。だが、スウィートなマカロンのような表層をめくると顔を出すのは大胆なほど無駄を省き空間を活かしたアレンジ・センス(仕切り人=キーボードのロスタムはプロデュースも手掛けていてめっちゃ才人だと思う)とフックの効いたメロディ、歯切れのいいビートとポイントを的確に射抜いていく冴えたギター・リフの数々。考え抜かれ吟味されたジャストな配置/デザインとそれを裏打ちする知性の存在には惚れ惚れさせられるし、そんな風に骨子がしっかりしているから彼らのライヴはストリングスやチェンバーレインなど盤を彩るデリケートなサウンド~スタジオ・マジックなしでもみごと成り立っているのだろう(今一番エネルギッシュなライヴ・コンボのひとつと断言します!)。過剰とは無縁のクリーン・カットでストイックなフォルムは時間の経過やトレンドの推移に風化しない純度の高いネオ・クラシシズム――彼ら同様優れてブッキッシュでインテリジェントなボタン・ダウンの似合う学生バンドだったトーキング・ヘッズやヤング・マーブル・ジャイアンツ、ザ・フィーリーズ、近年ではダーティ・プロジェクターズの理性が思い浮かぶ――を形作っている。それを計算されすぎていてソツがない、と称する人間が出てくるのも想像できる。しかし控え目な中にも③や⑨のシャウトにはエモーションがしっかり宿っているし、名曲⑥⑩のサニーで甘美なバースト/痛みに胸揺さぶられない人は・・・おそらくロマンを汲み取る心の井戸が干からびているので、ちゃんと水をあげた方がいいと思います(余計なお世話ですが)。
すごいすごいと前評判が高いバンドや作品ほど、逆に警戒心を抱いてしまう。このウルトラ天邪鬼な性癖と懐疑心の根深さは半端じゃないと自分でも思うし我ながらイヤにもなるのだが(単純に知覚が鈍く、その音楽の良さや価値を理解・納得できるまでに人一倍時間がかかるだけって話もあるが・・・)、このバンドに関しては完全に武装解除させられてしまった。Believe The Hype!ということで行ける限りライヴに足を運び、その成長・変化を辿っていきたいと思っているし、センス・音楽性・ライヴの良さとここまですべて出揃った新人との出会いはストロークスの「Is This It」以来だったりする(ライヴに足を運ぶたび、セット・リストが同じと分かっていても開演前に胸がバクバクしてしまうのも同じだなぁ)。若い人にはまったくピンと来ない感覚だと思うけど、長く音楽を聴いているとどんどん耳の皮が厚くなってきておいそれとは驚いたり感動しなくなってくるもの。そのシニカルな堆積層を打ち破ってくれるニューカマーに、これから何度出会えるんだろう? そんな不安をつい抱かずにいられないほど量産コピーと頭の悪ーいにぶちんバンドがはびこるシーンにぽっかり浮かび上がったこの瑞々しいポップ・ジェムとの邂逅は、筆者に音楽を聴き続けることの喜びを再確認させ笑顔を浮かべさせてくれた。マジ嬉しいし、どうか、あなたもこの作品が示すポップ・ミュージックの可能性とピュアな歓喜を受け取ってくれますようにと願わずにいられない。
追記:ビッグ・スター不朽の名作「Radio City」(72年)を飾るウィリアム・エグルストン写真へのオマージュ?とすら思えるジャケットも最高。2枚並べて飾ってます。(BY Mariko Sakamoto)
アルバム・デビュー前から「今年もっとも印象的なデビュー」と
ニューヨーク・タイムスも太鼓判を押したというブルックリン発の4人組ヴァンパイア・ウィークエンド。その先走り気味な騒がれっぷりだけでも、このバンドが年内にアーケード・ファイア、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・イェーらに続く「インディ好きのアイドル」として注目を浴び愛されるのは間違いなさそうな気配だが、この3曲入りデビューEP(レコーディングもメンバーが担当している)は確かに良くできていて、センスのあるバンドだなあと感心させられた。
コンゴのダンス・リズムにちなんだタイトルを持つ1曲目「Cape Cod Kwassa Kwassa」は、アフリカン・ビートとクセになるギター・リフを使った軽妙なポップ・チューン。エレピやシロフォンなど徐々に音数を増して盛り上がっていくアレンジも上手いし、さりげないのに知的な作りにノックアウトさせられます。ニューヨーク出身のバンドでアフリカン・ミュージック・・・と言えばトーキング・ヘッズが思い浮かぶわけだけど、このサウンドのテクスチャーは「Remain In Light」の緊張感よりも、むしろハイライフ・ミュージックやポール・サイモンの南アフリカ賛歌:「Graceland」が持つリラックスしたふくよかさ&ポジティヴなポップネスと共鳴している。抜群なコーラス・リフ「Feel So Natural/Peter Gabriel Too」(思わず頬が緩んでしまう、このお茶目なリフだけでも聴く価値あり!)からも彼らがアフリカ音楽とロックのクロスオーヴァーにオマージュを送っているのは感じられるけれど、過去数年続いている80年代リヴァイヴァル組の多くがストレートにNWサウンドをなぞっているのに較べ、ヴァンパイア・ウィークエンドにはたとえばスクリッティ・ポリッティやヤング・マーブル・ジャイアンツ、ACR、あるいはトーキング・ヘッズが「脱パンク」の課程として非ロックなサウンド(レゲエ、ファンク、アフリカン・ビートなど)を追究したように、ダイレクトに「影響源」に向かい自分達の個性に取り込んでポップなアマルガムに仕立ててしまうような、いい意味での無邪気さ/大胆さがある。とにかく、あの猫も杓子も・・・なしゃかりきディスコ・ビートを使わないところだけでも、このバンドは新鮮だと思う。
アップ・テンポな②(7インチ・シングルではB面)は「ストロークス以降」を感じさせるシャープ&コンパクトなギター・サウンドのインタラクションが見事だし、地味ながら③のメロディもいい。バンドのウェブサイトでEP未収録曲などもストリーミングもされてるので、ぜひチェックされたし(この音源は自主制作盤だが、次のシングル~来年1月リリースのフル・アルバムはXLから出るようです)。にしても、すごく80年代英国インディ・バンド的な感性を持つバンドだけど、今のイギリスに実際こういうブリリアントなセンス(=冒険心や好奇心)を持つ連中が少ないのは、皮肉というかちょっと残念な話・・・。
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