なんとも美しいバンド名だな――シアトル発の5人組フリート・フォクシズの名前を目にしたとき、真っ先に感じたのはそんなことだった。ここのところ(地味渋かもしれないけど個人的にはツボな)スルメ型優良バンド/ポップ作品のリリースを続けているサブ・ポップが送り出す新人ということもあり期待は増す一方だったし、ブログを始めとするメディアの前評判~SXSWでの評価も軒並み上々。EP「Sun Giant」のアメリカーナ・ミーツ・チェンバー・ポップとでもいうべき端整な世界に触れて以来UK上陸を指折り数えて待っていたのだが、デビュー・アルバム発売記念タイミングでもあったこのロンドン公演、早いうちに完売→追加ギグも出るほどの人気には驚いたし(早めにチケット買っておいてよかったー!ちなみに、マッシヴ・アタックが仕切るメルトダウン・フェスティヴァルにも出演予定。エルボーの前座だけど、エルボーを食っちゃいそうですね)、このライヴの少し前に観たボン・イヴァーでも感じたことだが、ヤング向けの華々しいハイプやTV広告の煽りがなくても草の根人気を着火させることは可能なんだと励まされた次第。もちろん、コスモポリタンな大都市ロンドンでのギグだけに「話題のバンドを一目」と足を運んだ業界人だのゲストのジャーナリストも多数観に来ていただろう。しかしほぼ全曲合唱するファンと共に見守ったステージの上には、確かに他にはない美しい世界が存在していた。
この晩はフリート・フォクシズの欧州における発売元Bella Union(コクトー・ツインズのロビン&サイモンが主催するレーベル)のイベントでもあり、ダブル・ヘッドラインの一番手はレーベル・メイトの男女ユニット=ビーチ・ハウス。ボルチモア(イェーイ!)出身の彼らはメランコリーの星座が明滅するような繊細かつミニマルなサウンドを得意とするバンドで、サイケデリックなゆらぎも放っているのがユニークなバンド。ビーチ・ハウスと言っても、この人達のビーチはニール・ヤングの佇んでいた浜辺であり、デニス・ウィルソンの瞳に映った砂浜なのだろう。ミシェル・ルグランの姪(!)というヴィクトリア(Vo&Keys)、ギターのアレックスにドラムスを加えての3人編成で登場、全員白ずくめという出で立ちも音にふさわしいロマンチック&ミステリアスな雰囲気を醸している――という出だしまでは良かったのものの、プログラムされたサウンドをベースにした演奏は徐々にフラットに陥っていき、予期していた以上に一面的。ヴィクトリアの意外に線が太くソウルフルなヴォーカル、ローレル・キャニオン的なフォーク・メロディ、ダニエル・ジョンストンのカヴァーなどキラリと光る聴きどころもあったのだが、ライヴ・アクトとしては物足りなかった。
ビーチ・ボーイズ風の♪シャン・シャン・シャン・シャン・・・キーボードは好きだし、ボトル・ネックの生み出すふくよかな曲線は美しかった。しかしそれらの優れたパーツが目の前で生演奏として化合し、1+1=2以上の異なる世界を生み出すまでには至っておらず、そのやや寒い噛み合いきらない状況/オーディエンスの反応をポジに押し返そうという気力もバンド側から伝わってこなかったのは残念。そもそもそういうムーディさが彼らの魅力のひとつなのだろうし(マジー・スターとの比較もそこから来るのか?)、上手い云々ではなく雰囲気を楽しむべきだったのかもしれない。セットが短すぎて本人達もやや不満そうだったのには大いに同情したが(もしかしたら、前座とヘッドラインの立場が逆転してムクれていたのかもしれないが)、あれならルーム・リスニングとあまり変わらない・・・というわけで、アルバムは好きなのでもうちょっとライヴ・サウンドを鍛えてもらったところで改めて、またライヴを観てみたいバンドだなと思った。
しかしまあ、次に控えるフリート・フォクシズ目当てのファンがほとんどという状況ではビーチ・ハウスも正直やりにくかったのだろう。5人組の彼らは、最大ギター3本+キーボード+ドラムスという堂々たるフル・バンド。セッティングを眺めつつ同じくBella Union所属のミッドレイクを初めて観た時(→奇しくも同じ会場)を思い出したりしていたのだが、ヒゲ+長髪という素朴な佇まいまでは似ているものの、メンバーの平均年齢はFFの方がぐっと若い(笑)。ファンの一部から「メサイア」と呼ばれているロビン(Vo/G)はフー・ファイターズのテイラー・ホーキンス(個人的に全然タイプではないが、たぶんあのバンドで女人気が高いメンバーだろう)を2ヶ月監禁したような風体だし、リード・ギタリストのスカイラーに至っては、がんばればキングス・オブ・レオンに参加できそうな(別に参加したくもないだろうが)グッド・ルッキング・ガイ。しかし、そんな優男がいきなりヴァイオリンの弓を使ってギターを弾き出すなんて場面には・・・なかなか出くわさないと思う。ミーハーな物言いになるのを承知で書くと「若くいい男が本格的なルーツ・ミュージックをやっている」という新鮮さも、フリート・フォクシズ人気に拍車をかけているのだろう。バンド側にそういう意図は一切ないだろうけど、オルタナ・カントリー/アメリカーナ界隈にかわいい「アイドル型」が少ないことを思うと(ライアン・アダムス、コナー・オバースト、レット・ミラーくらいか?)、彼らやフェリス・ブラザーズのイメージ――前者にはCSN&Y、後者にはザ・バンドが浮かぶ――は、間違いなくプラスに働いているはず。
それはさておき。ア・カペラによる1曲目「Sun Giant」から彼らの最大の武器のひとつであるオーガニックな4部コーラス・ハーモニーが静かに、しかし力強く花開いていく様にはやはり酔わされた。青い闇がやがてラヴェンダー色の朝焼けにスライドし太陽が輝き出す、あのマジカルで心洗われる瞬間を音で聴くようにそのままアルバム1曲目「Sun It Rises」に続く展開も絶妙だ。柄にもなく神妙な気分になったものの(だって聖歌みたいなんだもん・・・)、名曲「Drops In The River」で本格的にキック・オフしたバンド・アンサンブルはダイナミックで、リヴァーブ・アンプ2台から飛び出す深い轟音に凝縮された音作りは実にモダンでスリリング(マンドリンの素朴なプラッキングとのコントラストもいい)。彼らのファースト・アルバムのジャケットには筆者も大好きな画家であるピーテル・ブリューゲルの代表作が使われているが、ブリューゲル「雪中の狩人」の一見プリミティヴでありながら細部まで行き届いた描写力と緊張感のある構図が思い浮かんだし、マイ・モーニング・ジャケット同様、このバンドも単なる復古主義者ではない。もちろん、クリスチャン・ロックでもない。
「English House」のリズミカルなポップ(こういう曲でバンドの空気が熱くなるのは、やっぱり若いバンドですね)からビーチ・ボーイズもよもや!の麗しい「White Winter Hymnal」、前半のハイライトにして激ロックだった「He Doesn‘t Know」・・・と切れ目なく続く美メロと流麗な演奏・ジャストなアレンジの妙にオーディエンスは完全降伏(幸福)状態で、フレンドリーかつファンへの感謝を繰り返す謙虚なMCから滲むメンバーの人柄の良さと相まってみんなウルウルしている。音楽性はおろか人間性すら疑わしい同年代の勘違いUKインディ・バンド連中も彼らの爪の垢を分けてもらい、煎じて飲んだ方がいいんじゃないだろうか。終始椅子に座ったままだったロビンは今時珍しくスポンジ付きのマイクを使う人で(そういやボン・イヴァーもそうだったな)、ソフトなツヤが加わった伸びのいい歌声はとてもあたたかい。彼が1曲アコギ弾き語りで披露してくれたのは、ジュディー・シル「Crayon Angels」のカヴァー(号泣!)。悲しくも美しいこの曲、言うまでもなくはまりすぎでした。ラストはアップ・テンポなアメリカーナ「Ragged Wood」のフレッシュなグルーヴからCSY&N的な旋律がめちゃ泣ける名曲「Mykonos」という文句なしの展開で、アンコールの喝采は鳴り止まなかった。再びロビンのアコギでプレイされた「Oliver James」、沁みたなあ。
あえて注文をつけるとしたら、サウンドの探求を今以上に突っ込んでいってほしいということ。恐らくこの素晴らしいライヴで、イギリスにおける彼らのポジションは固まったのだと思う。既に今秋キャパ3000近い会場でのロンドン・ギグもアナウンスされているし、CSN&Yやイーグルス、フリートウッド・マック好きな若年寄ORオヤジ・ファンは(このギグでファンを完全掌握したように)彼らのチャームの前にひれ伏すだろう。だが、アンタッチャブルな存在になるのはまだ早い。たとえばレディオヘッドやシガー・ロス並みにマニアックになっていいと思う。繰り返しの比較で恐縮だが、ボン・イヴァーの演奏がすごかったのは彼のギター・プレイにはトラディショナルなだけではない味――ぶっちゃけて言えばメタルやハード・ロック――のエレクトリックで不協和音の感覚があり、それがフォークやカントリーといったクリシェに複雑な異化作用を与えることで、筆者に鳥肌が立つような感動をもたらしたからだと思う。機材へのこだわりやリード・ギタリストのセンスなどこの晩もフリート・フォクシズの「音響ルーツ・ロッカー」な面は随所に見られたし、もっと貪欲に実験し腕を伸ばし冒険し、時に失敗して何かを掴んでほしい。ブリューゲルからボッスのサイケデリアへ――そんな贅沢な期待を抱かずにいられないほど、このバンドの完成度の高さと世界観/イマジネーションの豊潤さは驚異的だった。
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