Big hair, cool beats
ポーラー・ベアー、アコースティック・レディランドを始め、最大時10アクト以上?と言われるほどいくつものバンド/プロジェクトを掛け持ちし(ベイビーシャンブルズのファースト・シングルで客演したこともある)、「今イギリスでもっとも多忙なミュージシャン」「ロンドン版クリス・コルサノ」と異名をとるセブ・ローチフォード。バズ・オズボーンも真っ青の天をつくアフロ(というか、後ろから見るとほとんど動くクリスマス・ツリー)がトレード・マークの彼は、音楽学校でジャズを学び、UKジャズ新人賞を授与されたこともあるジャズ・ドラマー・・・って肩書きになるんだろうが、アイドルはスレイヤーのデイヴ・ロンバルド、影響としてビョークからナパーム・デスまで挙げるこの人は、パンクやメタルからジャズに流れていった、「オルタナ」。サキソフォニストのピート・ウェアハムと共にジャズ、ロック、ファンク、アヴァンギャルド、エレクトロニカ、パンクとボーダーレス&ミクスチャーな音楽を鳴らし、ヒップなインディ・ギター・バンドとも難なく対バンするその軽やかな足取りは、ドラム・スティックとビートさえあればどこにでもアクセスしてしまえる=演奏が基盤のミュージシャン本来の姿を伝えるようで、実に男気がある。本人は「忙しいけど、昔のジャズ・ミュージシャンやセッション・プレイヤーはみんなこんなもんだった。あっちに借り出され、こっちに引っ張られで」と淡々としているが、ジャンルに拘泥することなく「音楽」をプレイすることが無上の喜びで、それゆえ常に動き続けている彼が率いるバンドのひとつ、ファルボーン・テヴァーシャムを観に行ってきた。
ロンドン北部の外れに位置する会場ルミネアは、過去3年ほどでロンドンの音楽好きから高い支持を勝ち取った人気ヴェニューのひとつ。狭いが、ユニークなバンドならオール・ジャンルでブッキングするポリシーと、「うるさくて他のお客に迷惑な方は退場してもらいます」という(酒を片手にガヤガヤ観るのが当たり前な)ロンドンではあり得ない注意書きを壁に貼ってまで「音楽を楽しもう」姿勢を打ち出していて、いつ行っても雰囲気がいい。この日のギグは計4バンド出演で、ファルボーンは3番手。Ill Ease(ソロ女性シンガーで、ループさせた生ギターをバックにドラムを叩きながら歌うユニークなスタイル)、Quack Quack(バンド名はアホですが、リーズ出身のインスト・バンドで、テンション高いポスト・ロックが実にかっこ良かった。ライトニング・ボルトみたいにフロアでドコスカ演奏し始めた・・・が、なんとキーボード・プレイヤーが演奏中に卒倒するアクシデントが起き、中断。もっと聴きたかったです)に続き登場したファルボーン、巨大なアフロをゆさゆさ揺らしながらスツールに座るセブに歓声が上がる。バンドの中で大概一番存在感が薄いとされるドラマーで、これだけクール&カリスマティックな男前もなかなかいないし、しかもジャズからパンクまでオールマイティにこなすセンスに、うるさい男性ファンもリスペクトを送らずにいられない模様。
ポーラー・ベアーでは比較的トラディショナルなジャズを、アコースティック・レディランドではジェームズ・チャンス的パンク・ファンク・ジャズをプレイ(ポール・エプワースが一部手がけたALの最新作「Skinny Grin」には、実際チャンス御大もゲスト参加)しているが、女性シンガー=アリソン・グラントのヴォーカルを軸に据え、インストと歌の比率が50/50くらいのファルボーンは、中でももっともポップ色の濃いユニットと言える。とはいえ楽曲はクラシックな「Aメロ、Bメロ、コーラス」型ポップ・ロックではなく、疾走するジャズ・ドラムにアナログ・シンセが彩りを添え、サックスがフリーキーにつんざいていくスリリングなインストや、プログレ(特にカンタベリー・ロック)~映画サントラ風なミニマルなメロ、シャンソン的バラッド、レゲエのバリエーションなど、多彩なトーンとムードが混在したアヴァンギャルドなもの。それでもアレンジは音数を絞っているので、アリソンの(いい意味で)素人くさい歌唱と相まって小難しさは皆無で楽しめる――スラップ・ハッピーのスマートな遊び心とエッセンシャル・ロジックの都会性/ポスト・パンクのローファイ感覚を合わせたらこうなる?というのが、ファルボーンのファースト・アルバム「Count HerbertⅡ」に対する筆者のイメージだ。
しかし、シンプルなアレンジ~隙間の多いコンポジションほど生でプレイする時は難しく、各プレイヤーの力量がモノをいう。そこはさすがジャズをみっちり学んだだけあって、セブの硬軟自在なドラミング(ハイハットもファットなバスドラも、質感がどんぴしゃで脱帽)もピートのサックスも、ミュートしたサウンドさえ(単に弱くプレイするのではなく)力がこもっていて、テンションが高い。ゆえにダレない。何より、このバンドはやってる本人達がライヴでしか生まれない息遣いを互いにエンジョイしているのがいいし、そういうプレイを観るのはすごくリフレッシュされる。
盤で聴く以上にアリソン嬢のヴォーカルが繊細で(イギリス女性らしい素っ気なさが魅力でもあるんだが)、バックのサウンドと拮抗するような凄みを生んでいないのはちょっと物足りなくもあった。しかし、いくつものアウトレットを持つセブ・ローチフォードにとっては、このユニットも彼の大きな音楽世界~アイデアの一部なのだろうし(まず曲を書いて、その上でどのバンドでプレイするか考えるそうだし)、1作ごとの完成度より、プロセスやチャレンジそのものがポイントなのだと思う。たとえばライアン・アダムスそうだけど、多作で複眼的なミュージシャンのファンになると、全体像が見えるまで一緒に走り続けなくちゃいけないから苦労する。でも、自らの変化や成長を(失敗や外しも含めて)ドキュメントしていく彼らのようなアーティストは、人間臭くてやはり好きです。巨大アフロ青年の行く末に、ご注目あれ。
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