というわけで、雑感から。
前回=ウィークエンド・ワンから約3週間、再びマインヘッドに戻ってきたATP(この後スペインのプリマヴェーラ、アメリカのピッチフォークに遠征予定。なぜ日本に行かないのさ?!)。「対ファン」というタイトル通り、これまでソニック・ユース、モグワイ、シェラック他が担当してきたキュレーター(宴会で言えば幹事~仕切り役)は、なんと我々オーディエンスが一部負担だ!イェイ!①過去以上に大きな新会場への移動も成功&定着②海外フェスへの進出開始と、昨年末からイベントとして大きな節目を迎えつつあるATPからファンへの、「日頃のご愛顧に感謝」大盤振る舞い・・・というわけで、ATP側が決定したアクトに加え、フェス参加者からの希望を反映させる社会主義実験が行なわれることになった。今年春から参加者による人気投票(チケット購入者に1人あたり10組の出演希望アクトを選出する権利が与えられた。順位が高いグループから、ATP側が出演オファーを出していく仕組み。ちなみに筆者の希望はウィルコとサトルの2つ実現したので、打率としては、まあ悪くないと思う)が始まり、ATPウェブサイトは大賑わい・・・とここまでは良かったものの、フタを開けたら意外やATPキッズの冒険心が薄いことが発覚したのだった。ムムム?
「好きなアーティストを」という気持ちは山々だけど、インディ・プロモーターであるATPの規模(集客は5000人程度)では出演料が出せなさそ~な人気高騰バンド、あるいは他の商業系ビッグ・フェスにラインナップされている(=わざわざATPで観なくたっていいじゃん)ようなアクトが多くチャート・インしていて、それよりも普段イギリスにツアーしに来ないバンドや滅多にライヴをやらないアーティストをこれを機に!と願う身としては、「うーん、みんなもうちょっと知恵絞ろうよー・・・現実的になろうよー」と、(ウルトラおせっかいは承知で)ヤキモキしていた次第。その事態にATP主宰者バリー・ホーガンも業を煮やしたらしく、途中から投票時の参考資料として「ATPがこれまで企画してきたライヴ」のリストを公表、手が出なさそうな国際ビッグ・アーティスト(ビョークとかボブ・ディランとかね)は諦めるように(?)とファンを諭したり、下方にランク・インしているアーティストにもオファーを出したり、裏工作に走っていたのには笑ってしまった(「ディアフーフを選んだ皆さん、残念ながら彼らはその時期ニューヨークでボウイがキュレートするフェスに声がかかったそうで、ATPに出てくれません。にしてもボウイ、そのアイデアをどこからパクったんだ?」とクサしていたけど、キュレーター・フェスならATPよりメルトダウンが先なので、バリー・ホーガンもあんまいい気にならないように)。
最終ラインナップも、①ベスト・オブ・ATP的「鉄看板バンド」(モグワイ、シェラック、スリント。毎回品質保証付きの超定番)②ATPらしからぬアクト(GO!チーム、エコー&ザ・バニーメンなどに古株ATPファンは「なんで?」と不満顔。ちなみに、筆者は間違ってもまだ古株ではありません)③エヴァーグリーン組(ダニエル・ジョンストン、ヨ・ラ・テンゴ他、いつ何度どこで観ても感動させられる人々)が混じり合い、これまで筆者が参加したATPの中で、もっともとっちらかった内容だったのはちと残念――なんて書くと「スノッブ」「インディ・エリート主義」と後ろ指さされそうだけど、この投票企画自体=オーディエンスとのインタラクティヴなフェス作りというアイデアは素晴らしいし、それだけファンとコミュニティを信頼しているATP側は立派ではある。毎回配布されるプログラムに、投票者全員の名前が印刷されていたのも泣けたね(オレの名前もあったぜ~!)。しかし、残念ながら今回は、その理想に我々ファン側がまだ追いついていなかったんじゃないか?と思った。
オーガナイザーのこだわりや精神が感じられるフェスが決して多くない中(フェスのほとんどがその年サーキットを回っている現在人気アクトをかき集めているので、被りが多くて似たり寄ったり)、キュレーターを立てることでATPは一本筋を通してきたし、商業フェスではお目にかからないような「発見」にも筆者は数多く出会ってきた。老舗コンサート・エージェント/プロモーターにパイプを占領されている(であろう)国産アクトよりも、海外アーティスト(主にアメリカ)の欧州への「輸入」に重点を置くことで差別化を図った先見の明・着目点の良さにはこちらも大いに恩恵を受けている。しかし今回打った博打は、奇しくもファン側の安定/多数派志向を露わにする形になったんじゃないだろうか。
と同時に、久々にATPに来た知人が「会場が大きすぎだよ~、がっかり!」と漏らしていたように、昨年から年2回開催、冬のナイトメア・ビフォア・クリスマスからキャパを拡大した結果、ATP側もそのアイデンティティを変えつつある。これまで(英国内における)プレミア・アンダーグラウンド~インディ・フェスとしてほぼひとり勝ち状態だったATPも、フェス戦国時代に突入してうかうかしてはいられなくなってきた(ファン投票の上位にいたアーケード・ファイアをLatitude Festivalにかっさらわれ、相当悔しかったはず)。昔のようにコアな方針を通せば商業的に支障をきたす恐れがあるし、チケットを売ってくれるコマーシャルなバンドを招けばフェスの個性が失われる。イギリスならではのホリデー・キャンプというシステムを活かした宿舎付きフェスというアイデアを始め、優れた企画力を誇るATPだけにその存続は切に願うものの、バランスは難しいですね。
まあ、そもそもこんな特殊で素敵なフェスを年2回(ナイトメア~も含めれば3回)も開催すること自体、無理があるんじゃないかとも思いますが(キュレーターのネタも尽きるだろうし、客としても懐厳しいっすよ)。昔ながらのポリシーとフェスとしてのブランド・ヴァリュー確立との狭間=分岐点に立つ、そんなATPの模様をリポートします~なんて思ってたら、次回=12月開催ナイトメア~のキュレーターはポーティスヘッドだわ!やっぱりまた行かなくちゃっつーわけで、ATP積み立て貯金を開始したとこです・・・やっぱ、このフェス好きなのね自分。
いよいよオーラスでっせ!というわけで、ATP3日間を締めくくるにふさわしいワン・アンドオンリーな米西海岸発音楽集団、サトルの登場です。かつてワープ傘下だったLEXからリリースした最新作「For Hero:For Fool」も好評を博している彼らは、アンチコン・アクト・ファミリーとして数々の作品を発表してきたMC/シンガーのDoseoneとJelの2名(このふたりがゼムセルヴスの核)にダックス・ピアソン他が加わって2001年にデビューを果たした6人組バンド。ヒップホップが音楽性のベースにあるのは間違いないが、そこにロックやエレクトロニカ、クラシックなどあらゆる音楽およびメディアを自由奔放に化合させていく彼らを、筆者はアウトキャストとTVオン・ザ・レディオ(一緒にツアーもやってます)の中間に位置するような、ハイパー・ハイブリッドなモダン・プログレッシヴ・ポップ集団では?と思っている。どのバンドも、やってることはハイブロウなのに、メロディが良くて聴きやすいのが特徴。自分みたいなミーハーにも、気軽に楽しめるところが素敵です。
フェス最終日:深夜を回ってもまだ元気の残っている観客が結集したサード・ステージに、メンバーが黙々と機材を積み上げていく。現在のサトルのステージは、中央に祭壇めいた縞模様のドクロをいただいた胸像が置かれ、その周辺を5人(サンプラー、チェロ、パーカッション、キーボードなど)がぐるりと取り囲むユニークな設営。ピンク・フロイドの「Another Brick In The Wall」を思わせるムーディなイントロから始まる「A Tale Of Apes 1&2」でライヴはキックオフ、ステージ衣装にいつの間にか着替えていたDoseone(セッティング中は普通のTシャツ姿だったのに~!素早い)がセンターに踊り出し、エキセントリックな声(鼻声というか、甲高いおばちゃん声というか)でマシンガン・ラップを乱射していく。この人のフロウと意識の流れをノンストップで垂れ流していくようなメカニカルなライムは本当に個性的で、一度聴いたら決して忘れない。
というわけで、ライヴを引っ張っていくのはDoseoneの強烈なステージ・ペルソナ。手作りの摩訶不思議なコスチュームはもちろん(今回は黒が基調だったけど、以前観た時はサテン白づくめでかなり眩しかったです・・・)、巨大な赤いカギ束を始めとするジャンクなアクセサリー、ごつい縁取りの眼鏡というシアトリカルないでたちは、時代からもトレンドからも切り離された近未来のマッド・サイエンティストといったところ?曲の合間に語りも披露するのだが、まったく関係のなさそうな逸話を話し始め、(「1年に何羽の鳥がビルにぶつかって死ぬか、みんな知ってる?」とかね)そこから曲にジャンプする飛距離/脱臼感は爽快にぶっ飛んでいる。それだけでも十分面白いのだが、頭蓋を開けてプラスティックのフォークを取り出してバラまいたり、トランプを使ったり赤いハンカチを血に見立てるなど、小道具を駆使した寸劇の数々を披露しながら(ドクロを相手に歌う姿は、昔のボウイをちょっと思い出しますな)彼の中で巻き起こっているマニックな想念と言葉を大汗をかきかきヴィジュアル化していく。そのプロセスはまず単純にダイナミックだし、そのエネルギーに引き込まれ、ぱっくり口を開けた非日常的世界にこちらも落ちていく。頭脳と肉体をフル回転させた、こんなにめくるめくパフォーマンスをやっているアーティストは、今他になかなかいないだろう。
身体へのフェティシズムとアメリカン・ライフの奇妙さが入り混じる、幻想とも悪夢ともつかない「For Hero~」の世界を展開していくDoseoneの舌技はとにかく圧巻!だったが、それを支えるバンドも屈強。ほとんどプログレ・バンド並みの複雑なアレンジからフィジカルなヒップホップ・ビートまでさらりとこなす姿はかっこいいし、サンプラーやキーボードを多用しているものの、出てくるサウンドはあくまでオーガニックなのでロック的な盛り上がりも自然に生まれる。全員の一体感とタイトなミュージシャンシップが麗しいこの演奏だけでも、ごはん3杯は軽くいけますな。「For Hero~」の楽曲がメインのセットで、特にキャッチーな「Middleclass Kill」や「Midas Guts」やシングル「The Mercury Craze」は大ウケ。ダイナミックな音の渦&波にオーディエンスも白熱し、珍しくアンコール(最後だったからオマケだったのかもしれないけど)に応え再び登場したメンバー・・・の中に混じっているのはATP初日に出演した、盟友WHY?。ひときわ大きな喝采が寄せられる中cLOUDDEADの「Dead Dogs Two」のひなびたビートがスタートし、それまでのテンション高い演奏から一気にほん~わかサイケデリックに脱力してくれたのは、なんともシャレていてかつ気持ちよかった。簡単にジャンル分けできないバンドだけど、音楽の受容器官を全方位で刺激されマッサージされ、ぐんにゃりしたい方は、ぜひ聴いて(できれば観て)みることをおすすめします。
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