イギリスのフェス暦07も、ようやく終わりを迎えた。空前のライヴ・ブームに伴ってここ1、2年フェス過熱&乱立状態に突入した観のあるイギリスだが、中には採算がとれなくて今後が危ぶまれる新興フェスも出てきたし、出演者が被っている「似たりよったり」フェスも少なくない。大雨にたたられてさすがのフェスっ子もげんなりさせられた(であろう)今夏は、過多から淘汰に向かうひとつの折り返し地点になるのかも・・・と思う。それでもフェスに行く客の数自体はまだ増加傾向にあるってんだから(ここ数年、グラストンベリーやVといった人気フェスは拡大。また、グリーンマン・フェスティヴァルも今年から会場が広くなった)、①イギリス人はよっぽどアウトドアが好き/かつ、②フェスに行くこと自体がファッショナブル、という図式が確立しているようだ。キッズだけではなく、せっせとフェスに足を運ぶ40~50代ロック・ファンが増えているのも最近の傾向。今に、シルヴァー・フェスなんて企画が生まれるかもしれないですね。
などなど色んなことを考えながら、オックスフォードで開催されるプチ・フェス、トラック・フェスティヴァルに向かった。今年で10回目を数えるこのイベントは、オックスフォード出身のゴールドラッシュの面々らが中心になって始まった手作りフェス(TRUCKレーベルも運営してます)。集客数は5000と商業系フェスに較べればぐ~んと小規模なものの、収益はチャリティに寄付され、大手コンサート・ブッキング・エージェントの「フェス網」からこぼれがちなラインナップ~ビール会社や携帯電話会社、放送局といった今時のフェスに必須の冠スポンサーを寄せ付けないインディな姿勢で異色を放っている。このフェスで、たとえばアークティック・モンキーズやカイザー・チーフスらトップ・クラスの人気UKバンドを見ることはまあないだろうが(そもそもギャラが払えないでしょう)、フェスの原点を保ち続けようとするそのスピリットを支援するコアなリピーター(TRUCKERと呼ばれる)はちゃんと育っていて、ここしばらく毎年ソールド・アウト。いつかトラック詣でをしてみたいもの・・・と思いつつ筆者が行き損ねていたのもそのせいだったが、今年は会場エリアが運悪く洪水に見舞われたため、開催が7月から9月に延期→払い戻しチケット入手→というわけで念願のトラック参加が実現することになった。会期変更に伴い、目当てのブライアン・ジョーンズタウン・マサカーやエイロス・チャイルズがキャンセルになったのは痛かったし、開催直前ぎりぎりになるまで仕切り直しタイム・テーブルが発表されない(再ブッキングに奔走したり、主催者側もかなり混乱していたんだろうけど)のには正直イライラさせられた。しかし、オックスフォードシャーの農場に花開く小さな音楽コミュニティは、オルタナティヴなフェスとして筆者にフレッシュな印象を残してくれた。
サイトに到着、リスト・バンド引き換えテントに向かうと、手作りキルトの「TRUCK FESTIVAL」幕が迎えてくれる。フェスというか、規模の大きい学園祭~村祭りみたい。キャンプ場はライヴ・エリアのすぐ近くで(徒歩5分)、テントまで遠いのに慣れている身としてはびっくり。リスト・バンドのチェックや持込み荷物の検査も極めてゆるいし(ドラッグ取り締まり/治安維持のため警察官は巡回してましたが)、のんびりしてます。もっとも、サイトそのものが「広大」とは言いがたい個人経営の農場だけに、バーを除く物販エリアは少なく、食事の屋台にいたってはなんと3つだけ(!)。大小6ステージを詰め込んだ結果、音楽以外のエンタメは極力控えめになったということなんだろうし、そもそもプロの屋台を受け入れていないのだろう。美味しい手製の地ビール(しかも安い)を売りに来てたおじさん以外、場内で売られてたお酒は量販店から安く仕入れたとおぼしき缶ビールだし(笑)、地元ロータリー・クラブのじいちゃんばあちゃんがその場でモリモリ焼いてるハンバーガー以外、料理は調理済みのコールド・フードやスナックのみ(しかもあんまり美味しくない)。フェスに行って、バンドT買ったりさんざん飲み食いしたいよ~という向きの人間には辛いだろうが、音楽と酒さえあればOK!な人には、ちょうどいいスタイルかも。
ワン・ステージの平均アクト数は12で、朝10時台からスタートする連中もいるほどスケジュールは過密。ラインナップにはDJも含まれているが、アルバム前の売り出し中若手ギター・バンドやシンガー・ソングライター率が高く、30分程度でテンポよくステージが切り替わるのはナイス。お隣のテントになったロンドンから来たオヤジ集団(毎年トラックに来ているそう)から「牛糞の匂いに注意しろよ~!」とさんざん脅されつつ、まず向かったのはバーン・ステージ。その名の通り、BARN=家畜小屋です(でも匂いは気になりませんでした)。元デルガドス:先日デビュー・ソロを出したばかりのエマ・ポロック(Emma Pollock)はさすがに人気が高く、場内後方までギャラリーが入っている。ベースを弾きまくる凛々しい姿を嬉しく眺めていたのだが、ラジオで普通にOAされそうなアメリカーナでパワー・ポップ風メロディ~じゃんじゃかギター・リフ(ビッグ・スターがモデルと思いたいが、シェリル・クロウにすら聞こえる瞬間も・・・)も、コンクリ鉄筋でできた会場+硬めの音との相性が悪かったのを差し引いても、さすがに4、5曲続くと単調に響いてくる。相変らず美しい声の持ち主だけれど、こういうサウンドに彼女のシンガーとしての資質は果たして合っているのだろうか・・・?とちょっと首を傾げてしまった。続いて登場したジョシュ・T・ピアソン(Josh T Pearson)は、「テキサスの罰当たりバンド」こと元リフト・トゥ・エクスペリエンスの強面。世捨て人みたいなワイルドなヒゲにテンガロン・ハット、カウボーイ・ブーツとばりばりにカントリーで、ギター1本でうなり、吠え、時に恫喝し時に泣く、神と悪魔が交錯するブルース・ソングで観客をねじ伏せるパワーには痺れた。ブルータルで無骨な見てくれで、知性と繊細さをガードしないと生きていけない男――そんな、悲しくも美しい野生児達=ジェフリー・リー・ピアースやマイケル・ジラの後輩とも言える人だが、ラスト「Devil’s On The Run」でオーディエンスを煽って酔っ払い気味な豪快大合唱に持っていく場面などユーモアもチラリと見せてくれて、見事な大人のパフォーマンスでした。
場内を子連れでウロウロしているセイント・エチエンヌのサラ・クラックネルを見かけたりしながら、ニール・ヤングを目指しているのがありありと覗えて(笑)ある意味微笑ましいSSWリチャード・ウォルターズを軽くチェックし、ファック・ボタンズ(Fuck Buttons)に向かう。イギリス発のこの2人組、酩酊型の分厚いノイズ・エレクトロニカ~ドローンの壁を淡々と生み出していくニヒルでアグレッシヴな様が「6割スロー・ダウンしたスーサイド」といった体でかっこいい。しかし、余韻に浸っている筆者を叩き起こしたのは次に控えるフォールズ(Foals)だった。地元の強みもあるだろうけど(トラック出演は今回が2回目)、ヤング&ステューピッドなファンが殺到しテントはみるみる満杯状態。バンドがセッティングしている間にステージ前のショボい柵が倒れそうになり、クラウド・コントロールも追いつかない。慌てた主催者側が何度も「皆さん、一歩下がって~~」を連呼するものの、酒の入った血気盛んな若衆は頑として引かず、一触即発の完全対立ムード。遂にはセキュリティ側がキレて、キャンセルになってしまった。暴動になりかねなかったところをバンドが登場し、「今夜9時にバーン・ステージでプレイすることになったから、そっちに見に来て!」と諌めてことなきを得たが、「SKINS」出演以来人気うなぎ登り上昇中の彼らを狭いテントにブッキングしたオーガナイザーの判断の甘さはもとより、「ホットなバンド」への圧倒的な飢餓感/他人の事情などお構いなし!な若いイギリス人の利己ぶりを目の当たりにした気がして、びっくりさせられた。昔はこんなんじゃなかったのに・・・。というわけでやっと始まった仕切り直しのライヴは、演奏力の確かさと自信に満ちたステージング、ポスト・パンクを消化した楽曲のポップさでたちまち炎上。かっこいい!デビュー・アルバムを手がけているのはTVOTRのデイヴィッド・シーテックだが、彼ならこのバンドのエネルギーをうまく盤に刻み込んでくれるに違いない。楽しみです&バトルズを聴いて更に精進するように(余計なお世話か)。この日は好天に恵まれ、宵の口もまだ過ごしやすい。寝転がって見上げた満天の星空に、ロンドンの空気がいかに濁っているかを実感したりしながら、一番楽しみだったメイン・ステージのトリ=ガース&モード・ハドソン(Garth Hudson)のライヴを見守る。はい、ザ・バンドが誇るオルガンの魔術師/天才ミュージシャン(まあ、ザ・バンドはそもそも天才揃いのバンドなんだけど)=ガース・ハドソンと、奥さんモードのデュオ・ユニットです。ゴールドラッシュの面々もバッキングで参加というスペシャルなバンド形態での演奏だったが、今年70歳とは信じがたい鍵盤の冴えたタッチだけでも充分聴き応えがある。25年以上連れ添った両者の阿吽の呼吸、モード(サングラスにスカーフと、マトリョーシカみたいだった)の意外なほど太くしなやかな咽喉・・・と、ジャズ/ソウル/カントリーをブレンドしたサウンドが織り成していく音世界は、歳月に支えられたマジックと豊かさに満ちた贅沢なもの。「The Weight」の情に満ちたカヴァーに耳を傾けながら、来た甲斐があったなあとつくづく思いました。
翌朝、お隣テントのおじちゃんから分けてもらったウォッカのコーラ割りを片手にのんびりスタート・・・したところをいきなり吹き飛ばされたのが、ポートランドを拠点に活動するシンガー・ソングライター=アダム・グネイド(Adam Gnade)の演奏。ユースムーヴィーズとのコラボEPを聴く限りではライヴのサウンドがどうなのかちょっと不明だったが、ソロの出演となった今回はバンジョーの弾き語り――というか、文字通り「トーキング・ソング」です――というユニークなスタイルと、ダーク・サイドをあぶりだす鬼気迫るストーリーテリングぶり(凄絶なシャウトになだれこんでいく「It‘s Five O’Clock In America」には寒気すら覚えました)が圧巻だった。PAの不調に業を煮やし、50人ほどのお客の中に飛び込んでアンプなしで歌うピリピリした佇まいもポートランドっぽくパンクだし、生粋のストリート発の語り部/天才肌の言霊使いだと思う。今回、一番ショッキングな出会いでした。続いて同ステージに登場したフリーダ(Hreda)は、オックスフォード出身の4人組ポスト・ロック・バンド。チェロをフィーチャーした起伏に満ちたサウンド・スケープは、モグワイやアイシス好きにはたまらない気持ちよさ/雄大さだ。新作も素晴らしかったブリストルの文学青年グレイヴンハースト(Gravenhurst)ことニック・タルボットは、今回はソロ。バンドでの演奏も聴かせる人だが、ギター1本のシンプリシティは、たとえばエリオット・スミスを彷彿させるギター・プレイの繊細さ~メロディの物悲しさをじっくり堪能させてくれて、逆に得した気分。スウェーデン人メンバーが中心のバンド=アルバータ・クロス(Alberta Cross)は、音はオーソドックスな70年代ロック~カントリー・ポップ(ザ・バーズ~フライング・ブリトー・ブラザーズ型)ながら、さすが北欧!メロディが垢抜けていて小奇麗だ。突出したところはないけど、じわじわしみてくる歌心バンドですな。
いよいよ日も暮れて終盤戦は、話題のネオゲイザー、カイト(Kyte)観戦からスタート(セヴンティーン・エヴァーグリーンとも対バンしてました)。すごく期待していたんだけど、機材/PAの不調で1曲目から演奏が破綻。うーん・・・もどかしい。状況が整っていれば耽美なウォール・オブ・サウンドで陶酔させてくれるバンドなんだろうけど、マコーレー・カルキン似のヴォーカル(日本人の女の子に人気出そうですね)君もステージ上で見るからにイライラしっぱなしだったし、シガー・ロス~ミューを思わせる美しい音像はたまに見え隠れしたものの、バンド本来の姿がライヴで聞こえてこなかったのは残念。次回に期待です。ラウンジ・ステージのトリ=タンバリンズはネオ・サイケなガレージ・サウンドが素晴らしいだけに観たかったが、そこまで居残ってるとロンドンに帰れなくなるので泣く泣く諦め、シェフィールドのノイズ・パンク集団ロロ・トマーシ(Rolo Tomassi)でシメ。セッティングを進めるメンバーはまだ子供みたいに若いが、中でもひときわ眼を引くのはシャイなブロンドの美少女(でも黒Tシャツに赤いホット・パンツ姿で元気)エヴァちゃん。ちょっと待った、そのTシャツ、よく見ればアット・ザ・ドライヴ・インのバンドTじゃないですか――というわけで、爆音マス・ロックがキック・オフした瞬間美少女は女セドリックに豹変(お母さんが泣くわよ:笑)!マイク使いも踊りもまだまだだけど、ATDIのビデオを何度も見返してセド&オマに憧れてきたんだろうなあ、この娘・・・と思うと、いじらしくもかわいい。デス声で絶叫するメルト・バナナ型ヴォーカルの迫力に観客は唖然としているが、このバンドの音楽的な要はキーボード・プレイヤー。狂ったように暴れ踊り、コーラスをつけながらもプログレな鍵盤使いは外さないナイスなプレイだし(彼が曲も書いてる気がする)、それを受け止めるギター隊もしゃかりきリフを連射して堅固。最後までバーストしっぱなしだった若さを失わず、このまま奔放に成長していってほしいバンドです。
メインストリームの商業系大フェスではなかなかお目にかかれない、でも個性にあふれたアーティスト/音楽にたくさん出会えて大満足のトラック・フェスティヴァル初体験。英DIYフェスの古株として、彼らの未来に幸あれ!
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