前日のMGMTに続き、同会場で行われたYeasayerのショウ。大雑把に言えば「ブルックリン新派大集合シリーズ・ギグ」ってことになるんでしょうか、注目を集める両者だけにどのギグも早いうちにチケットは完売していた。本来は4日に予定されていたセレブレーション公演はキャンセル→払い戻しになって残念だったが、当初彼らのオープニング・アクトとしてブッキングされていたDragons of Zynthがこの日に振り替えられたようで、思いがけず観れたのは不幸中の幸い。というか、メインのイェーセイヤーが霞んでしまうほど(笑)DoZは突出していた。断っておくと去年のラフトレ・インストアがドタキャンになり(アーケード・ファイアのロンドン公演にフロント・アクトとして急遽抜擢されたため)、直後に決まったクラブ・ギグも仕事で行けず・・・とチャンスを2回逃してきただけにイェーセイヤーは非常に楽しみにしていたし、いいバンドではあった。しかしライヴ前の期待値が前座とメインで逆転してしまったのは久々の話で、痛快だった。
昨秋デビュー作をリリースしたDoZの名は、TVオン・ザ・レディオやセレブレーションのインタヴューで何度か目にしていた(さすがファミリーとして強い連帯を誇るTVOTR組)。しかしメンバー本人も「今UKの発売先を探してるとこなんだ」と話していたように、ここイギリスではまだ国内リリース前でほぼ無名に近い。それだけにライヴ開始時点での観客数は約30人としょっぱかったが、アフリカン・アメリカンのメンバー3人(うちVo/Keys、G/Vo担当のふたりは兄弟)+東洋系女性ベーシストという編成は否応なしに目を引く。しかもルックスがめちゃ派手でドレス・アップぶりがナイス。メインで歌うAkuは別珍ジャケットに赤いポロシャツ、スラックスと60年代風だし(いい男なのでやたら似合う)、軍服+赤い羽根でできた(見るからに暑そうな)帽子を目深に被ったAkwetey(ギター)はさながら謎のインコ。ドラムスのBizzはシックにスーツ姿だったが、マーヴィン・ゲイを思わせる風貌とシャツの下でもはっきり見て取れる逞しい筋肉に「ごついビートを叩きそうだな」と募る期待は大当たりで、耳をびりびり振動させるパルス・ビートに合わせダークな音のカオス――トリップ・ホップとジミヘン、ギター・サイケの共犯?――が立ち上がった1曲目でKOされてしまった。
ゆったりしたテンポと深く重いダブ・ビート、シューゲイザー的ホワイト・ノイズ・ギターの合間を浮かんでは消える瞑想~ゴスペル型の歌唱。TVOTRの幻想的な音の伽藍と相通じる音世界だが、3曲目でギアが入り一転アップ・テンポ、フガジを思わせる突貫パンク・ロックに突入!ここらへんはやはり若さを感じるし、その手のはじけ曲は「Wolf Like Me」くらいで基本荘厳&スピリチュアルなTVOTRのやんちゃな弟分といったところか。観音様を思わせる穏やかな表情を浮かべ、目をつぶったままリズムに没入していく女性ベーシストのタイトなラインに導かれバンドは炎上、いちいちかっこいいブレイクのフックにこちらも踊りまくりだ。ヴォーカルふたりはお互い相手に負けじ(兄弟同士のライバル心?)とシアトリカルかつユーモラスなアクションを繰り広げ、双方のダイナミックな動きからは片時も目が離せない。個性と主張ぶりはアクが強いほどだが、「バンドの一員」に徹する線の細いインディ・バンドのヴォーカルなんかより1000倍マシっす。カリスマとスタミナに圧倒されるばかりだったし、そのダンサブルなハード・ロック・サウンドゆえに彼らをリヴィング・カラーと比較する声があるのも分からないではない。しかし筆者の頭に浮かんだのはむしろ「Ritual De Lo Habitual」の頃のジェーンズ・アディクション。声質はまったく違うしテクニックも追いついていないが(ミクスチャー勢はプログレに聞こえるくらい上手いしね)、たとえば「Stop」の型破りなバースト感やケレン味を抽出し、ストレートで差し出したらああなるかもしれない。ペリー・ファレルはきっとこのバンドが気に入ると思う。そしてたぶん、このバンドはデヴィッド・ボウイが好きだろう(ボウイもファンらしい)。
この頃までには埋まっていたフロアの上にリヴァーブとスウィート・ノイズが絡まるマッシヴ・アタックばりに美しいアブストラクト・ダブの雪を降らせ、バンドはいったん退場した。しかしDoZのユニークさに打たれた観客から拍手が湧き、アンコールはいきなりエンジン全開でクラッシュ「Janie Jones」の爆音カヴァー! ステージから降り、噛み付くようなシャウトで大人しい観客を煽る様もかっこよかったこのぶっちぎりフィナーレに感動し、思わずこのまま帰ってしまおうか・・・とも考えたが気を取り直しイェーセイヤーに待機。キーボードがヴォーカルを兼ねているのでステージ中央をデンと鍵盤+サンプラー卓が占め、向かって左にはギタリストの砦(アンプ、ミニ・キーボード他。「Vote Obama」ステッカーが眼を引く)がそびえる。ゆえにステージ上の動きは乏しくならざるを得なかったものの、盤のサウンドはシャープに再現されていてPAも優秀だった。アルバム最後の曲(隠しトラックを除く)「Worms/Waves」からスタート、水中をたゆたう燐光クラゲのような妖しいサウンド(キーボードと東洋系ギター・リフが効いてる)が場内を満たし、後半のインスト部に揺られるうち気分は早くもピンク・フロイド・イン・ポンペイ。Nayseyer(否定したがる人)の逆を行くポジティヴなバンド名に恥じず、ヒッピーです。
彼らの強みは全員がコーラスをとれるところで、美麗ラーガ風ポップ「~Summer」はアクロン・ファミリーばりのオーガニック・ハーモニにはうっとりさせられたし、「No Need To Worry」が編み上げる音と声の広大な空間は今後もっと大きく成長しそう。「Tusk」期リンジー・バッキンガムに匹敵するストレンジで複雑で(いい意味で)やぼったい構成(=プログレとNWの混じったこの味、好きです)がたまらない「Forgiveness」「2080」は抜群で、ボウイやブライアン・フェリーを思わせるクリス(Vo)のダンディな熱演にオーディエンスも引き込まれていった。しかし美しいもののリフ中心のさざなみギターは攻撃性が薄く単色に陥ることもあったし、シンセ・ドラムを多用したビート・メイクはライヴでは迫力に欠ける気も。スタジオ・ワークをいったん忘れて、ライヴでもっとバカになってくれてもいいかなとは感じた。
ラストは待ってました!の必殺曲「Sunrise」で、DoZの面々もステージに招かれる(全員がハグし合う姿にLOVEを感じたね)。それまでクールだったクリスもマラカスでハイハットを乱打しながらハンド・マイクで暴れ始め、ドラムはもちろん叩けるものなら何でも叩きまくりステージ上を転げ回る他のメンバーと入り混じってのハッピーな混乱になだれ込んでいった。子供の乱痴気騒ぎめいた光景にこちらも笑顔を浮かべずにいられなかったし文句なしのハイライトだったが、終演後一抹の物足りなさが残ったのは前日のMGMTと同様。何で?と考えてみたけれど、恐らくDoZにあってMGMTとイェーセイヤーに欠けていたのはパフォーマーとしての確信なのだと思う。ラヴ&ピースとか音楽を通じて悟りを開きよりよい人間になろう・・・なんてメッセージは、今のシニカルな時代たちまち「ニュー・エイジ野郎のたわごと」と一蹴されかねない。しかし、たとえばパンクもヒッピーも要は社会の規範や編目からハミ出したフリークスという意味で根っこは同じじゃんと思っている筆者は、笑われてもバカにされても信念を貫くこと、胸を張って理想を掲げることは表現者の基本と思う(誰だ、「Kill All Hippies」とか言い出した奴は?イギー・ポップだってストゥージズ時代からマクロバイオティックやってたでしょ?)。その意味ではMGMTもイェーセイヤーもまだ及び腰。メッセージ・バンドになる必要はないが、聴き手を巻き込むような自信を養ってくれればもっと説得力が出てくるだろう。アクロン・ファミリーは恐らく彼らほど話題にならないだろうが少なくとも「Love is Simple」のメッセージをまっすぐ歌い上げる純粋さを持っているし、DoZは何よりパフォームすることをエンジョイすれば、理想は後から勝手についてくるといういい意味での割り切りを持っていた。
とはいえ、今回はロンドンの鈍く麻痺したオーディエンスが相手なのも分が悪かったか?とも思う。歴史を塗り替えるような政治/社会における潮流の変化を体験している今のアメリカには、未来を自分達で変えることは可能と信じるプロアクティヴな世代が生まれている気がする。もちろん実際変革を達成するのは容易ではないが、停滞・安定期より遥かに希望や夢は生まれやすいしそれだけ選択肢も増えアートも活発になる。新しい何かに懐疑を抱くこと自体は健全だ。しかし面前で繰り広げられる新種のパワーをステージに返すことなくただ傍観していたこの晩の観客の多くは、重度のアパシーに侵されているように見えた。
ドラゴンズ・オブ・ジンス「Coronation Theives」を脱兎チェック!
イェーセイヤー「All Hour Cymbals」を脱兎チェック!
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