エドガー・〝ジョーンズ〟ジョーンズになんらかの思い入れを持つUKロック・ファンは、実は少なくないと思う。90年代初めにリヴァプールから登場したガレージ・モッズの雄ザ・ステアーズ(Go! Discs所属)。当時はエドガー・サマータイムを名乗っていた彼とその仲間達の叩き出すエグくワイルドなRAWグルーヴ――ゼム、アウトサイダーズ、プリティ・シングスあたりが好きな人間にはもーたまらん!――に即ヤられ、「Weed Bus」「Mary Joanna」「Flying Machine」なんかでアホのように踊り狂っていた自分もその例に漏れず、アルバム「Mexican R&B」(92年)後残念ながらキャリアは下降線をたどっていったとはいえ、Stairsの6文字は心の片隅に常に居座っていた。それだけにポール・ウェラー来日公演でツアー・メンバーとしてステージに立った彼の姿(とても個性的な顔立なので見間違いようもなかった)を思いがけず見かけた時の驚愕&喜びはひとしおだったし、英MOJO誌の記事を通じ現在も音楽を作り続けていると知ってほっとしたもの。知人の若いブリティッシュ・ロック好きから「ステアーズのシングル全部持ってるんですか?貸してください!」と頼まれて驚いたことがあったように、デルタソニック人気の影響でリヴァプール・サイケに再び注目が集まりつつあった時期でもあり、ペイル・ファウンテンズ/シャック、ザ・ラーズに次ぐカルト裏番ステアーズ再評価の波は、2年前に発表された奇跡の初期音源集「Right in the Back of Your Mind」を生むに至った。
とはいえ肝心のエドガーは地元リヴァプールでバンド、DJ、プレイヤーとマイ・ペースの活動を続けながら(外野の声は耳に届いていただろうが、苦い過去を蒸し返すつもりはないのだろう)、ジャズ、R&B、ブルース、サイケデリック、ドゥーワップ、シカゴ・ブルース、ファンクなどディープな音楽知識/愛をファースト・ソロ「Soothing Music For Stray Cats」(05年)にじっくり凝縮させていった。実にひーっそりリリースされたとはいえ(イギリスで探した時も、大手チェーンのジャズ・セクションにしか置いてなかった)キャプテン・ビーフハートばりの咽喉と秀逸なソングライティング、ムーンドッグやトム・ウェイツを彷彿させる質感や空気感の細部にまでこだわったヴィンテージな音作りが聴くほどぐんぐんしみてくるこのアルバム、聴く人は聴いていた。ノエル・ギャラガーの太鼓判(→筆者の中のお兄ちゃん株がこれでぐっと上がった。男が惚れずにいられない男、それがエドガー)&マーキュリー・プライズのノミネート、更には日本盤化&来日公演実現・・・とあいなり、久々に「いい話だな」と思ったものだった。
昨年リリースされたセカンド「Gettin’ a Little Help…from The Joneses」は前作よりややロック色を強め、ダンスホールからソリッドなソウル・グルーヴまで踊れる曲ぞろいのこれまたご機嫌な作品になったが、安易なポップ・パンク~ガキ・ロック~インディ・ディスコ旋風が吹き荒れる今のイギリスにおいてぶっちゃけエドガーみたいな人の居場所は少ない(リトル・バーリーやアコースティック・レディランドらおいらの贔屓バンドがいまひとつなのもそのせい?)。もちろん音楽性で言えばロック勢よりエイミー・ワインハウスの方が遥かに近いけど、エドガーの濃さ&妥協のなさの前では現在人気の高いレトロ・ジャズ/ポップが水割り(下手したらパスティーシュ)にすら聞こえてくるし、ストレートよりもそっちの方が飲みやすいのはまあ間違いない。実際この晩の客の入りも7割程度で、不適当な会場&宣伝不足という状況を差し引いてもちと寂しかった。しかしステアーズ来日公演から数えたら実に15年ぶり(この人あんまりロンドンまで降りてこない&ギグ・プロモーションも皆無に近く情報を逃してばかりで臍を噛んでたところ、今回やっと観れたんです)に観るフロント・マン=エドガーはライヴの間中ジェイムソンを壜から直接呷っていて、「水で割る」なんて概念などカケラも浮かばないらしいその姿を観て、やっぱり愛すべき頑固者ブリットだなーと思った。
キーボード、スタンダップ・ベース、サックスなどてんこもりのステージをザ・ジョーンゼズが占めたところで、エドガー登場。ラフな長袖Tシャツ&フレア・ジーンズ姿に、一瞬テリー・リード「Terry Reid」のジャケットが脳裏に浮かぶ(顔は全然違うけどね)。ベースをプレイしながら歌うとばかり思っていたが、今の彼はライヴでは歌に徹している。リズム主体のジャズ~ソウル・ミュージックだけにシンガーのパフォーマンスもグルーヴ要素として重要なのでそれも頷けるし、渋くブルージィなシャウトを最後まで持続させながらナチュラルなスウィングでライヴを引っ張っていってくれた。セカンドを中心にアラン・プライス~ジョージィ・フェイムもかくやのオーセンティックなグッド・タイム・ロールが繰り広げられ、ノリのいいロックンソウル・ナンバーからニューオーリンズ風ガンボまで気持ちよく揺られながら、曲作りの確かな才と引き出しの多さを痛感。中でもムーディなスロー・ジャズ・アレンジが聴かせる。エドガーより年下だろうが、バンドは上手くて全員味出し&本当に楽しそうに演奏していて見ているこっちもハッピーになる。この手のライヴではプレイヤーがどれだけのめり込んでくれるかがポイントなので、この点は大事。特にキーボーディスト(ポータブル・ザイロフォンのケースに「Safe As Milk」のお手製ステッカーが自慢げに貼ってあるのが抜群チャーミング!)とギタリストはあっぱれで、フィリー・ソウル風の涼やかなカッティングからバキバキにサイケなギター・ソロまで弾きこなすセンスには魅了された。
芸達者な連中に囲まれエドガー先生も伸びやかに・・・と言いたいところだが、なんとも興味深かったのがこの人の放つ一種の神経質さだ。「完璧主義者」という形容はイージーかもしれないけど、フロント・マンとしてだけではなく自分達の演奏やライヴのサウンドをシビアに批評家の目でジャッジしているようなところが感じられるのだ。先述したように合間にウィスキーを飲りながらのリラックスした雰囲気だったし、エドガーも汗だく。アップ・テンポ曲が中心のこの夜のセットは予想以上にロックンロールで、ステージ前に飛び出しモッズ・ダンスを繰り広げるファンもいた。しかし「More Than You’ve Ever Had」(ヒット曲、とは言わないけどおなじみの代表曲)の登場で場内全体がほぐれるまで緊張の見えない糸を感じたし、現ジョーンゼズのライヴ・コンボとしてのエネルギーをもっと大胆に解放してあげてもいいのでは?とも思った(ロンドンのお客はリヴァプールのファンより固くてクールに構えがちなので、そのノリの悪さ/冷やっこさも良くなかったんだろうけどね。こういうライヴでは客とステージが一緒に盛り上がる方が筆者は好きです)。常に自分にベスト課し、先を見据え続ける彼のCan't Get No Satisfactionな性分はある意味因果なのかもしれないが、これだけのセンスとルーツ・ブラック・ミュージックへの深い理解を誇るアーティストもなかなかいない。来月行なわれる来日公演で、その世界を生で体験してハマってみてほしいと思います。
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