元ヒドゥン・カメラズ~アーケード・ファイアのストリングス・アレンジ(最近もザ・ラスト・シャドウ・パペッツのアルバムでも手腕を発揮するなどひっぱりだこ)で知られるカナダの才人、オーウェン・パレット率いるモダン・チェンバー・ポップの逸品ファイナル・ファンタジー。ヴァイオリンを生でループさせ音をビルド・アップしていくユニークなライヴ(アンドリュー・バードと同じ手法ですね)と典雅な世界観~プログレッシヴ性で熱狂的なファンを誇る彼が、ロンドン、ベルリン、ウィーンの3都市で行ったのがこの「暗黒の宴」フェスティヴァル。オーウェンが仕切り役、イコールAll Tomorrow’s Partiesのプチ・ヴァージョンとも言えるけど、でもなんで今このタイミング・・・?という疑問も正直湧いた(目下の最新アルバム「He Poos Clouds」は2年前にリリースなので半端っちゃ半端)。蓋を開けたらFFの「This Is The Dream of Win And Regine」をパクってCMソングに使った会社に対し訴訟を起こしたオーウェンが、賠償金代わりにこのフェスのスポンサーになることを飲ませたのだとか。私服を肥やすのではなくマイ・フェスの形でファンに還元するなんて、憎いっすね。イベントの冠「暗黒の宴」の物々しさにはビビらされたものの、顔ぶれは強力&最高!FFのトリを筆頭に、ダーティ・プロジェクターズ(このバンドを観れるだけでも行く価値ありなんですが)、シックス・オーガンズ・オブ・アドミッタンス、フロッグ・アイズといいバンドがずらりと並び、更にはステファン・オマリー(サンO))))×アレクサンダー・タッカーも追加されての大盤振る舞いだった。特に「ゴス」「ダーク」とカテゴライズされるアクトは皆無で音楽性もバラバラなものの、精神面の暗渠をジュクジュクあぶり出していく音楽という意味では統一感があり、オーウェン・パレットのスタイリストとしての鋭いセンスを感じずにいられなかった。
ワクワクしながら地下鉄に乗り込んだところ、同じ車両にまだロンドンに居残っていたヴァンパイア・ウィークエンドのエズラとロスタムも乗り合わせていて(数日前にUKツアーの一部をキャンセルしたのはロスタムの体調不良のせいと聞いていたが、元気そうだぞおいおい・・・)、思わずストーカーっぽく覗き見してしまった(←ミーハー・バカですみません)。もちろん、彼らも目指すはFF――ということでインディ・キッズの流れに乗って向かった会場フォーラムは、北ロンドンにある老舗ヴェニューのひとつ。キャパは2000とでかく、さすがに売り切れないだろうと思っていたが(直前までギグを告知していた)、当日券待ちの客が長蛇の列を作っている。ステファン・オマリー追加のせいで開演が早まり、場内に入ると既にFFと同郷フロッグ・アイズのセットが半分近く終了していた。くそー!ライヴを観るのは初だったが、盤の音に較べ削ぎ落とされ隙間の多いライヴ・サウンドはあっちこっちに跳ね呻く彼らのメロディの不思議な構成(最初とっつきにくいが、慣れるとハマる)を浮かび上がらせていたし、ケアリー・マーサーの実にエモいコブシ系の歌声が推進力になっている。セットの前半は違うトーンだったんじゃないかと思うし、いつかじっくりフル・セットで観てみたいものです。続くシックス・オーガンズ・オブ・アドミッタンスことベン・チャズニーは、コメッツ・オン・ファイアやカレント93のメンバーとしても知られ、マット・スウィーニーともコラボ済みの多作な瞑想系インスト・インプロ・ギターの名手。1曲目から静かな地下水のごとく滔々と流れるラーガなギター・ワークがあふれ出し、感性と指の直結した雄弁で奔放なプレイに打たれる。途中から最新作「Shelter From The Ash」に客演したマジック・マーカーズのエリザが登場し、幽玄アシッド・フォークなヴォーカル曲(トム・ラップを思わせるミニマルなメロディ)に不協和音や高音の軋みで大胆に切り込みながらワイドなサウンド・スケープを繰り広げていく。フィナーレを飾った「Final Wing」でのワウの効いたリフはニール・ヤング的ロック・カタルシスすら感じさせる爆発モノだった――んだが、なんで他の観客はこのエモーショナルな音楽を前に終始くっちゃべっていられるんだろう??
ライヴの楽しみ方は人それぞれだけど、音楽を聴きに来たのか、それとも単純に友人と酒を飲みながら雑談を交わしたいだけのか判然としないクラウドに囲まれてSOOAのようにニュアンスと純音を浴びたいアクトを観るのは辛かった。頼むから聴こうとしてる人間を少しは思いやって、話したいだけならパブにでも残っててくれ&日本で観てたらこんな不快な思いはしなくて済むだろう・・・と募る苛立ちは、しかし続くダーティ・プロジェクターズでピークに(涙)。何度観ても精度の高さ/バンド・ケミストリーの優雅さ/完璧なハーモナイズにトバされまくりのこのバンドだが、デイヴィッド・ロングストレスの柳腰にゆらめく歌唱、交じり合う女声コーラスの曲線グラフ、ボトムより炸裂音が基本のパーカッション、精緻な運指の高音ギターといった要素が綴れ折りせめぎ合いながら水銀のように流れていくそのタッチはどこまでも軽い。最新作「Rise Above」を中心にしたここ最近のセットはだからこそ一音も聴き逃したくないし、それでも機械的なマス・ロックの冷たさとは無縁の彼らの演奏(ライヴの後にいつも仄かな温かみが胸に残るのです)はレアでプレシャスなんだけど、聴く耳持たない周りのガキ客がうるさすぎて集中しにくいったらない。2曲目「What I See」あたりまではバンドも通常よりシャウト気味なコーラス・ワークで対抗(?)していたが、デイヴィッド・ロングストレスという人は周囲に影響されないマイ・ペースで天然な人なのだろう(いつ見ても科学教師のようにどこか茫洋としていて、白衣を着せたくなる)、「Thirsty and Miserable」や冒頭のインプロとヴォーカリゼイションが圧巻だったラスト「Rise Above」まで淡々と、しかしピンポイント爆撃のごとくエモーションのバーストを積み重ねていく様はやはり格が違う。自分もその悟りの境地に達したいもんだが、DPの繊細な美を味わおうとしないバカ客とPAの甘さ(会場がでかすぎだっつーの)に祟られて今夜は無理だ~。
そのブータレ気分を払拭してくれたのが、最後にラインナップに追加されたにも拘らず、イギリスにおける昨今のドゥーム・ブーム(サザン・ロード作品とか、なぜか今やたらともてはやされている)を反映してか(?)トリ前のポジショニングとなったニュー・メタルのカリスマ=ステファン・オマリー&UKが誇るミニマル・サイケの詩人アレクサンダー・タッカーが繰り出した爆音。昨年KTLでステファン・オマリーを観た時の音圧ほどではなかったものの(あちらはよりエレクトロ志向なのでフィードバックも暴力的)、ドローンなエレキが引きずりチェロが隆起する約30分ノン・ストップのインストはさしずめ「Sister Ray」とクラウス・シュルツが合体したごときめっちゃ陰鬱(この晩一番暗かった)で重い音のカテドラルで場内を沈黙させていった。両脇のモニターに映し出される高速フィルム(溶解する化学物質や砂鉄のダンス、昆虫とおぼしき生命体の顕微鏡映像のリピート。ハチがうじゃうじゃたかってるハチの巣なんかが苦手な人は気分悪くなること確実)はどこかピーター・ビアードを思わせるグロさだったが、コンポジションが終結に近づくにつれ映像もシンクロして冒頭の絵に逆戻りしていき、実に穏やかに収斂。一見ランダムなジャムのようでいて(両者がライヴをやったのはこれが初だったそう)、理性をきっちり残したロック・アウトぶりは見事だった。
シメのファイナル・ファンタジーは、キーボード、ヴァイオリンの簡素なセット・アップにローファイなオーバーヘッド・プロジェクターを使ってのリアル・タイム・アニメーション(音楽に合わせてアーティストがその場でフィルムを動かす:可愛い!)を駆使して、文字通りダークでちょっぴりエロチックなファンタジーをステージに紡ぎ上げていった。音源で聴くと流麗な音作りと柔らかな歌声に酔わされるが、弦のプラッキングでベース・サウンドを作り、そこにループと生演奏、弾き語りを緻密に重ねながらうねっていくライヴ・パフォーマンスは想像以上にパワフルなもの(パトリック・ウルフも負けるな~!)。スポット・ライトに浮かび上がるひとりの人間の中から次々引き出される多彩な音の饗宴はどこかマジック・ショウ/イリュージョンを観るようですっかり心奪われました。カリスマですね。
というわけでお腹一杯になるほど凝縮されたプチ・フェスだったし、エッジーなアーティストが主導するイベント企画はこれからも歓迎したい。しかし、FFだけが目当ての観客(アメリカ人も多く混じっていて、アーケード・ファイア・ファンが多そうだったな~)の「他人の迷惑お構いなし」な自己中ぶりには閉口させられたし、せっかくオーウェン・パレットが選んだ他の出演バンドをちゃんと聴いてあげないのもどうかと思った。音楽が気に入らなくても、熱心に聴いている他の客の邪魔になるような大声トークを続ける必要なんてないんだし。イギリスでライヴ・ブームが続いているのは間違いないけれど、こんな風に「メイン以外はどうでもいい/聴いたことのないバンドは知りたくもない」アティテュード(金払って来てるんだから、今すぐここで俺達を満足させろ!的な余裕のなさを感じてしまうのは自分だけ?)を持つお客がはびこってしまうと、ライヴに行く楽しさが半減してしまいそうだな・・・それとも、こんな自分は神経質でうるさ型のリスナーなの??などなど考えながら、ちょっと暗い気分で会場を後にしたのだった。
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