Raw Woman Blues
期待以上だった――と書くと長年のファンにドヤされそうだが(笑)、カーラ・ボズリック率いるエヴァンジェリスタのライヴは圧巻だった。官能、狂気、怒り、笑い、嘆きなどが混沌と入り混じるいくつものエモーションを全開させていくそのパワフルなパフォーマンスは、「オンナ」という生き物にノーマルに内在する矛盾した本性を躊躇なく(時に暴力的なエネルギーと共に)むき出しにしていく。普段抑圧しているそうしたエモーションを解き放ってくれるという意味で筆者にとってはカタルシス充溢の体験だったが、一部の男性にとって、あれはある意味腋毛を生やした女性に出くわすのと同様の恐怖をもたらす光景かもしれない。
カーラ・ボズリックの足取りを手短かに辿っておこう。80年代LAポスト・パンク~アンダーグラウンド・シーンで活動を始めた彼女は、いくつかのバンドを経て90年代に入り〝パンク・カントリー・バンド〟ジェラルディン・フィバーズを結成。今もカルト人気を誇る彼らはメジャーからのリリース、SPINを始めとするメインストリーム音楽誌からの評価・・・と知名度を上げていったもののスタジオ・アルバム2枚で契約を解消され解散。マイク・ワットのツアーを通じて知り合い、後期G・フィバーズでリード・ギターを担当していたネルス・クライン(現ウィルコ。ちなみに両者はマイク・ワットの「Ball-Hog or Tugboat?」/94年にも参加している)をパートナーに迎え実験的ユニット=Scarnellaとして活動を続けた後、01年にウィリー・ネルソンのコンセプト・アルバムをカヴァーした「The Red Headed Stranger」で再び注目を集める(ウィリー・ネルソン御大もゲスト参加)。舞台/映画音楽の制作、ファイン・アート発表等も行いつつGSYBE!他でおなじみ・カナダのConstellationと交流を深め、同レーベルよりカーラ・ボズリック名義で「Evangelista」を06年にリリース。引き続きGSYBE!~シルヴァー・マウント・ザイオン他のエフリムがHotel2Tangoでレコーディングを担当したセカンド(前作のタイトルがユニット名として正式に決まったようだ)「Hello,Voyager」が先ごろ発表されたばかりだ。
20年以上にわたるキャリアの中でパンク、カントリー、ロック、ジャズ、ブルース、ポスト・ロック、前衛・・・と様々なスタイルやジャンルを吸収・越境してきた彼女だが、その本質はヴィジョナリー(預言者/幻視者)なのだと思う。本人もかつて「最大の影響源」としてパティ・スミスの名を挙げていたけれど、音と自由に感応しながら言霊やイメージを次々に引き出していくこの晩のパフォーマンスは「Easter」あたりのパティを思わせる実にポエティックでシャーマニック、本能的なものだった。グルーミーに隆起する不気味なインプロ・インストから演奏がスタートし、5分くらい経って最後にステージにふらっと登場したカーラもいきなりしゃがみこんでアグレッシヴなノイズ・エフェクトを操り始める。ドラムス、ギター、キーボード、ベース、チェロから成る男女混成バンドは全員凄腕で、集中力・持続力共に抜群(ドラムが素晴らしい!ぎりぎりまでサウンド・チェックをやっていて開場が遅れたのも納得、の一流のプレイヤー集団でした)。カーラの書く複雑でアヴァン、トライバル・ミュージック的ですらあるコンポジションをタイトに弾きこなしながらサウンド・スケープを徐々に形作っていく彼らは、彼女の小さな身体に「降りて」きたスピリットがステージで蠢き始めるのを見守るかのようだった。しかし、もしかして酔っ払っている?と感じるほど奇矯で不安定な立ち居振る舞い(左腕を怪我したらしくギプスがちょっと痛々しい)の中から鼻にかかった不思議なコケットリーを放つ歌声がうめきを上げ始めるや、磁場がぐいっと彼女に集中。曲の多くは長尺だし、即興の余地も残してある。だが無軌道でダレたジャムに陥ることなく1曲1曲が歌としてシャープに統合されていたのは、カーラの声の求心力ゆえだろう。〝声は楽器〟という表現はよく目にするけれど、フレージングから抑揚、咽喉の震わせ方に至るまでこの人のヴォーカル・コントロールは完璧。何オクターヴもレンジがあるわけではないが、幼女の笑いから妖艶な媚、打ち捨てられた女のブルーズ、獰猛な怒り、アーシーな大らかさ、シュールな世紀末的ヴィジョン(なぜか鈴木いづみのSFが頭に浮かんだ)まで綴れ折っていくエモーション/イマジネーションの触れ幅は、昨年観たメアリー・マーガレット・オハラに匹敵する迫力で背筋に幾度も寒気が走った。死や狂気と隣りあわせで生きている人間=本物のアーティストから発される独特なヴァイヴとでもいうのか、その波動を浴びるうち時にこちらも居心地が悪くなるほどだったし、酒を飲みながら観ている客の話し声がうるさくて閉口させられることが多いロンドンのライヴにしては珍しく、場内もピーンと静まり返っている。
しかしカーラ・ボズリック本人はヘヴィ&シリアスな演奏とは対照的にどこか無邪気で、曲によってギターをばしばしタッピングしたりスネアを叩きまくったり、リズムに乗ってぴょんぴょん飛び跳ね(お腹見えてるよ~!)、ラストにはステージを転げながら困り顔のカメラマン氏に抱きついてヘッドロックをかましたり・・・と奔放なステージングが笑いを誘う。男に負けじとシャウトやエネルギーを出そうとするからなのか(?)若い前衛ロック系女性パフォーマーはややもするとヒステリックな歌唱に陥りがちで観ていて痛くなることもあるが、この人はユーモア・センスと天然な女性としてのあっけらかんとした実在性のバランスがいい。ノイズやアグレッションだけでは伝わらない何かをちゃんと知っているし、いい意味で円熟しつつあるのだろう。とはいえライオット・ガールの前からライオット・ガールをやってた〝元祖〟だけにやんちゃぶりもそこかしこに健在で、新作からのブルータルなロッキン・ナンバー「Smooth Jazz」「Truth Is Dark Like Outer Space」でのワイルド極まりない爆発、〝意識の流れ〟型スポークン・ワードでぐいぐい昇りつめていく「Hello,Voyager!」はすさまじくかっこよく、そこらのインディ~アヴァンギャルド気取りのフィメール・シンガーがこぞって彼女の爪の垢を煎じて飲むべし!とすら感じた。まあ、女性が真の意味で天然&ナチュラルでいると俗世の男性はビビってしまうものだし、イコール一般的な〝幸福〟――夫&子供付きマイホームの余生ETC――とは無縁になりがちなのでうっかり手を出さない方がいいのかもしれないけどね。女がロックをやるのは、いつまでたっても辛い。意外なことにエヴァンジェリスタはこの日のライヴの前座一番手(!)で、続いてマジック・マーカーズ、オールド・タイム・レリジャンの登場が控えていた。どちらも観るつもりだったのだが、あんなに強烈な演奏(というかヒューマニティの発露)の後では何を観ても霞んでしまいそうだったので、そのまま会場を後にしたのだった。
エヴァンジェリスタ「Hello,Voyager」を脱兎チェック!
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