筆者の友人は以前グラスゴーを大阪にたとえたことがあったけれど、スコットランド・インディ・シーンの独自性=中央(UKで言えばロンドン、日本で言えば東京)におもねることない地域密着の気風はよく指摘される。たとえロンドンやメディア内でバズが起きているニューカマーでも、自分達の耳と目で確認しジャッジを下すまでは安易に心を許さない。逆に、そのバンドなりアーティストがスコットランドそしてスコティッシュ・ミュージックの遺産へのリスペクト・愛を示せばとことん熱くサポートする――ちょっと頑固かもしれないけど、トレンドに流されハイプに翻弄されるのがある意味宿命でもある情報過多なロンドンよりも筋の通った音楽ファンが多い気がするし、音楽に対する健全なハングリー精神/学習意欲の土壌にも繋がっているんじゃないだろうか。
今回初参加にして最後になったトリプティック・フェスティヴァルに行くことにしたのも、そのスコットランドに対する信頼が背景にあったのだろう。今年で8回目になるこのフェスは、「フェス」とは言ってもTイン・ザ・パークのような大型商業系野外フェスではなく、アバディーン・エジンバラ・グラスゴーの3都市をまたぎ、複数ライヴ会場を出演アクトがサーキットする形式。アメリカで言えばSXSWやCMJ、イギリスだとカムデン・クロールやグレート・エスケープがこれに近いかな(でもウルトラ・コマーシャルなTイン・ザ・パークもトリプティックも、スポンサーは地元のビール会社Tennentと同じなのは面白い。今年でトリプティックを終了し、今後The Tennent‘s Mutualというライヴ機構に生まれ変わるそうです)。
とはいえ基本的にエッジーでアヴァンギャルドな「非コマーシャル音楽」を偏愛するスコッツだけに、顔ぶれはアンダーグラウンド寄り&地元中心。これまでにシュトックハウゼンやグレイス・ジョーンズ、プリンス・バスター、ESG、チャックD、ノイバウテンといった敷居高めなアクトが出演したきたそうだし、今回も有名どころとして敢えて挙げるならRZA、キャンディ・ステイトン、モグワイ、クリニック、セバドー、ジェイミー・リデル、セオ・パリッシュ、デリック・メイあたり(それでも渋い)。ローカル勢では1990S、フェンス・コレクティヴ、フライトゥンド・ラビット、コレクト、マルコム・ミドルトン、そしてノーマン・ブレイクとパステルズがDJとして参加していた。イギリスのここ最近のムードとして「インディ・ギターmeetsクラブ」があると思うが、スコットランド(特にグラスゴーでは)クラブとインディ・ロックは常に共存している。
とはいえ筆者の目当てはアヴァンギャルドでもスコッツでもなく、ダーティ・プロジェクターズとマイケル・ハーリー。先ごろドミノとの契約が発表されたばかりのDPは「Rise Above」リリース以来欧州にもひっきりなしにツアーしに来ていて、筆者が観たエジンバラ公演の前にはロンドンでもプレイしていた。しかし、出演会場が「ソウルのまったく感じられない、アメリカナイズされたヴェニュー」(BYノエル・ギャラガー)O2アリーナだっただけに行く気は完全消失・・・。DP人気はイギリスでも徐々に上昇しているだけに、年頭に初体験しすっかり気に入ったエジンバラの小会場キャバレー・ヴォルテール(キャパはMAX200。ライヴ・ハウスらしいライヴ・ハウスです)に登場すると知って、すごく観たくなった次第。更にリサーチしたところ、なんとマイケル・ハーリーがさりげなくラインナップに混じっているではないか!60年代NYグリニッジ・ヴィレッジ~ダウンタウンを賑わしたフリーク・フォーク~ブルージィ・フォークの元祖とも言える彼は、ホーリー・モーダル・ラウンダーズやファグス、ESPディスク、Rounderを愛する筆者にとってカルト愛の対象のひとつ。キャット・パワーも彼の楽曲を何度かカヴァーしているし、じんわりしみる最新作「Ancestral Swamp」はデヴェンドラ・バンハートが立ち上げたGnomonsongsからリリースされてもいる。67歳と高齢なだけにアメリカはもちろん遠路はるばるイギリスくんだりまで来るのはレアだし、実際今回も意外やロンドン公演はなし(普通は地方だけじゃなくロンドンでも1公演くらいブッキングするもんなんですけどね)。というわけで、両者を体験すべく北上を決意したのだった。
ダーティ・プロジェクターズの前座はフランツ・フェルディナンドのメンバーが絡んでいることでも有名なコレクト・・・だったんだけど、会場入口のチケットもぎりおばちゃんのいい加減なタイム・テーブル情報のおかげですっかり見損ねる。このギグの後にDJイベントが控えていたため通常よりも開始時間が全体的に早かったせいで、のんびり他のパブで酒を飲んでいた友人連に至ってはDPの冒頭を見逃すほど。にしてもお客が少なくてびっくりだ(地元の友人によればこの晩グラスゴーでセバドー公演が行われているためインディ・キッズはみんなそちらに向かったのでは?とのこと。そりゃそうだわな)。ラフトレのプロモ不足もあやぶみつつ、しかしDPの4人は寂しい客入りなど意に介していないらしくいつも通りパーフェクト&エモーショナルな演奏ぶりで、今回の欧州ツアー冒頭にあたるこのライヴを心からエンジョイしているようだった。
セット・リストの半数を占めた「Rise Above」から、ゆったりした導入部を経てミドルのドラム・ビート炸裂(ドラムス、最高です)に至る転換が鮮やかな1曲目「Spray Paint」で早くもバンドはグルーヴに乗り始める。女性メンバー2名によるエンジェリックなカウンター・コーラスが波状に寄せては返す中、リズミックに踊る繊細なギター・ワークにガラスでできた爆弾のようにシンバルが破裂・クラッシュしていく様は何度味わっても魅了される文字通り「めくるめく」聴体験だし、精巧で知的でありながらとことんグルーヴィという稀なプレイ(このふたつを両立させるのは楽ではない)を抜かりなく毎回展開してみせるライヴ・アクトとしての完成度はすさまじい。バトルズの面々が彼らをリスペクトしているのも納得だが、実際今まで一度もこの人達の「いまいち」なギグに出くわしたことがない、というくらい高いミュージシャンシップには圧倒される。ライヴの核であるデイヴィッド・ロングストレスは飄々としながらも美しい出音や楽曲のエネルギーと完全にシンクロしていて、なんというか、アタマや感性は音の天界にとどまりながら細いプラチナのコード1本だけで身体を現世とプレイに繋げているよう。観ているこっちも吸い込まれずにいられない見事な没入ぶりだし、高音を歌う際に彼が思いっ切り伸ばす長い首はそのコードのようで、かつてパティ・スミスがトム・ヴァーラインに捧げた「鶴のように美しい首」という形容をつい思い出したりもした。「Rise Above」収録曲もライヴ・アレンジで相当生まれ変わっていて、「Depression」のテンションの高さや(毎回ラストを飾る)「Rise Above」のビルド・アップぶりは圧巻。EP「New Attitude」からの楽曲も良かったが、何より新曲群が激ポップで次のアルバムが今からとても楽しみになった(一緒に観ていたDP初体験の友人のひとりは、新曲を「今年聴いた中でもっとも美しい曲」と絶賛)現ラインナップの充実ぶりをキープして、スタジオになだれこんでほしい。いちおう、セット・リストを以下に。
Spray Paint
Gimmie Gimmie Gimmie
Depression
Demecula Sun
Fucked For Life
Neu Newtude
Imagine It
That‘s My Move
Thirsty and Miserable
Rise Above
Police Story(Encore)
明くる日はUnknown Pleasures(ジョン・ピールの名台詞が印刷されたレコード袋が泣かせるぜ!)を始めとするエジンバラのレコード屋めぐりに費やしたのだが、友人の強力なお勧めで行ったElvisShakespeare、ここはツボでした(住所:347Leith Walk)。店名はちょっと妙だけど、中古レコード・CD(エルヴィス)と古本(シェイクスピア)を半々で扱っているのがその所以だそう。天井が高く小奇麗な店内というのも中古屋っぽくなくて新鮮だし、何よりレコードやCDの大半を引き出し式キャビネットに収納してあるのが図書館みたいでユニーク。それでもまだ床や階段脇にアナログが山積みされているんだから独立店にしては圧倒的な在庫量だけど、(「ビートルズ袋」「エルトン・ジョン袋」といった具合に同アーティストの7インチを5枚まとめて福袋式で売っているのもかわいい)、雑然としているように見えてジャンルやアルファベット順にきちんと管理されているのは見上げたもの。クラシック・ロック、レアなサイケ、メタルにパンクにオルタナ、インディ・・・とカヴァーしているジャンルは広範で「何でもあり」ながら、80~90年代USインディ作品に強いのがミソ。愛想のいい店長に話を聞くと以前アメリカに住んでいたことがあるそうで、クレイマーと同じ学校に通っていたこともあったとか(!)。シミーものが多いのも、まさかクレイマー本人から横流し・・・?
今みたいにレコード屋そのものの存在があやうい時代にどうやってサヴァイヴしてるんですかと訊くと、3年前に開店した当初は実際経営難&借金に苦しんだもののここ1、2年でやっと軌道に乗ってきたそうで(儲けはないが、ひとりでお店を維持するくらいの売り上げはあるそう)、レコードだけではなく古本(量は少ないもののコミック・セクションは必見)も売っているのが持続の秘訣かなあ、とのこと。音楽と本が好きな人なら余裕で2、3時間過ごせるお店だと思うし、チャチながらカフェ機能もあるのでお茶もできる。何よりお店そのものに愛情が感じられるのがナイスだし、エジンバラに行く機会があったらぜひ足を運んでほしいショップです。にしても、ブライト・アイズの雑誌(DIW)付録シングル100ポンドは高すぎ・・・それでも咽喉から手が出るほど欲しかったのでうろうろした挙句「レアなのは重々承知だけど、高いっすねえ」と値引き狙いで軽~くコナをかけてみたのだが、「うん、他では見つけられないと思うよ!」とあっさり笑顔で断られました(苦笑)。基本的に値段設定は良心的な店ながら、マジにレアな作品は絶対に譲らないようです。さすが経営者。当方も7インチ1枚に2万円バーストできるほどの道楽者ではないので、フィーリーズのシングルのみ購入して退却しました。
日曜日はホリールード公園およびスコットランド議会に割りと近いボンゴ・クラブでマイケル・ハーリー観戦。会場は「飲み倒れ」ロイヤル・マイルや繁華街プリンシズ・ストリートからはちょっと外れたエリアにひっそりとある古ぼけたライヴ・ハウスだったが、恐らく昔はダンス・クラブ~ディスコだったであろう内装&造りと雰囲気は悪くない。ここはアンタイ・フォーク勢のギグなどもプロモートしているそうで、エジンバラでボヘミアンなノリを楽しみたい向きにはもってこいかも?とはいえローカル・アクト=グラント・キャンベルの前座は退屈だったので(ギターは上手いけど、スコットランド人がトニー・ジョー・ホワイトを目指すのはやはり難しそう)、客が少ないこともあり床に座り込んで待機。舞台で展開中の演奏よりも、ステージ脇のマーチャン台で休憩しているマイケル・ハーリー御大にばかり目が行ってしまいました(いきなりブーツを脱いで、裸足で休んでいるのがチャーミング)。
もうひとりの前座であるジョアンナ・ニューサムのお友達=アリーラ・ダイアンは昨年リリースされたアルバムがラフ・トレード・ショップの「07年ベスト・アルバム」に選ばれていただけにかなり期待していたし、マイケル・ハーリーとのデュエットも披露してくれたのだけど・・・うーむ。うららかな美声が鳴らすクリーンなカントリー・フォーク~素朴なマウンテン・ミュージックという以上の感慨/ショックは感じなかった。それだったらカレン・ドールトンを聴いてた方がいいんじゃないかと思ってしまったし、ギター1本で歌うシンガー・ソングライターが(イギリスの安直インディ・ギター・バンドが飽和状態に達しているのと同様)男女問わず掃いて捨てるほどいる昨今、よほどのサムシング(人生経験とかダーク・サイドといった強烈な磁力)がないとこちらも動かされない。しかしかなり時間が押しての登場となったおじいちゃん=マイケル・ハーリーは、さすが60年代を生き抜いてきた歴史&まっとうな人柄が内側から滲み出す味わい深いパフォーマンスを見せてくれて天晴れだった。見た目は明らかに白髪の元ヒッピーで(笑)どってことないが、アコギ1本とミニマルで渋い音はフォークというよりブルースのプレイ。一音一音がピンと張り詰めていて、無駄を省いたプレイは熟練の技にしてとてもシャープだ。じゃんじゃかコードを鳴らすだけの若い俄かフォーカーとはやはり訳が違う。だがライヴのノリは終始リラックス&インティメイトで、たとえば彼が自宅のキッチンやポーチで家族を相手に歌っているのもこんな光景なんだろうな・・・と思わせるほどほんわかあたたかくユーモラス。一杯のお茶を手にしたひと時や魚釣りなど、極めて日常的でありふれた素材からお話をみるみる紡ぎ出し歌にしてしまう熟練したストーリーテラーぶりに酔わされたのでした。
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