ATP最終日は、大抵静かめの「チラックス(チル・アウト+リラックス)」できるバンドからスタートする。前夜のサタデー・ナイトにフィーヴァー/弾けすぎた輩のためのちょっとした配慮なのだろうが(実際、月曜の仕事に控え日曜には帰ってしまう人々もいる)、珍しく朝まで騒いでいた今回はその心遣いがしみました・・・というわけで、筆者の日曜一番手だったイェンス・レクマンが織り成すシネマティックでロマンティックなラヴ・ソング集は疲れた頭と身体にずっぱまりだった。
ライヴは初体験だったのだけれど、最新作「Night Falls Over Kortedala」に展開されたオールド・ファッションでゴージャスなポップ・サウンド――フィル・スペクター、リー・ヘイゼルウッド、バート・バカラック、モータウン、マグネティック・フィールズあたりがキーワードか?――は、甘く温かなドリーム・シロップのように耳の中にあふれていく。とはいえ自己耽溺型の閉じたナルシストに陥ることなく、たとえばライヴ・ミキシング卓のスタッフに「次の曲は、失恋した時の自分を思い出しながらミックスしてくださいね」とステージから注文を飛ばしたり(場内爆笑)、テープが鳴らす鉄琴の音色に合わせて「見えない」鉄琴をジェスチャーでプレイして微笑を誘ったり、コンダクター~プロデューサーとして「切ないロマンチストであるイェンス」を主人公にするシアター=ステージを演出していく客観的な視点を備えているのがこの人のイマジネーションの豊かさ~すごさだと思う(彼の書く楽曲自体がストーリーテリング型なので当然かもしれないが)。チェロ、アコーディオン、アルト・サックス・・・とセット・リストを進めるごとにステージにちょっとずづ増えていくバンド・メンバー(全員女性!)もおのおの赤・ブルー・緑・イエロー・オレンジと異なる衣装を身にまとっていてカラフル&ポップだし、そんなプレゼンテーションへのこだわりにも、旧きよき時代のポップ・ミュージックあるいはビッグ・バンド・ジャズへの愛着・憧憬が感じられた。痩せぎすの体躯とフォーマルなルックスにスチュワート・マードックがやたらとだぶるイェンスだったが、まだ見ぬポップの桃源郷をDIYでクリエイトしようとする夢追い人なところも同じだな。しかし、スペアミントや同郷のピーター・ビヨーン&ジョンが浮かぶアコギの弾き語り風が美しいソウル・ポップな楽曲の躍動感が個人的には一番ぐっと来ました。
続いてサブ・ポップのネオ・ハードコア・バンド=ピスト・ジーンズを観るつもりだったのだが、空腹がピークに達したのでやむなく休憩。場内にあるしょぼ~い食堂に座って不味いご飯を食べていてもそのジーザス・リザードやメルヴィンズ並みの爆音は壁越しにビリビリ伝わってきたけど、すきっ腹+立ちっぱなしであのブルータルで「病んだ若い男のフラストレーション暴発」なパンク原始音を聴いてたらたぶん耐えられなかったと思うので、自分の選択は間違っていなかった、と得心。元気を回復したところで、オブ・モントリオール!エレファント6~アセンズ勢はやっぱり見逃せません。近年プリンス型の密室サイケ・ポップで人気上昇中のオブ・モントリオールは、ある意味ポリヴァイナル移籍後伸びてきた大器晩成型と言えるかもしれない(当時のE6ファンのノリとしては、オブモンやエルフ・パワーよりもやっぱりアップルズ、NMH、オリヴィアが御三家っぽかったのですよね)。10年近く前に日本で観た時にも感じた「学芸会ノリ」は変わっておらず、チープな赤ワンピース&どぎついメーキャップ(ドレスの下にはちゃんとジーンズ穿いてたので、脛毛アタックは回避できました:ホッ!)のケヴィンを筆頭に、アラブのベドウィン風トーガ(ベーシスト)、トランスベスタイトっぽい女性Keyプレイヤー、トラの着ぐるみ、ガイコツのボディ・スーツをまとったダンサー(クロムフーフやリー・バワリーを思い出す)との絡みなどステージはまさに百花繚乱のカオス。しかし演奏はがっちりしていて、その一見フリーキーながら堅固なプレイ&グルーヴにオーディエンスも盛り上がり、プチ・カーニバル状態に突入~~!(昨晩のレイ・サヴィー・ファヴといい、アメリカのバンドは掛け値なしの天然ストレンジをパフォーマンスに打ち出せるところが素晴らしいといつも思う)初期オブ・モントリオールのリリカルでベッドルームなサイケ・ポップが好きな向きにはショッキングな光景かもれないけど、ケヴィン・バーンズという人は常にエキセントリックで予測不可能な牙を隠していたわけで。ブライアン・ジョーンズタウン・マサカーとポップ・リーヴァイ~MGMTを繋ぐ、鬼才(素敵な変態さんとも言う)だと思った。
ここから、三連発で観たいバンドが続くセカンド・ステージにとって返す(=ウッデン・シップス→ノー・エイジ→ミート・パペッツ)。ライヴ初体験となるシスコ発ウッデン・シップスはドローンでダークなデビュー・アルバムの世界観をそのまま踏襲していて、クラウト・ロック的コズミックな反復に頭がグルグルして気持ちいい・・・までは良かったが、次第にそれじゃレコード聴くのと同じではないか?という気も。あからさまなストゥージズ・パクりが(しかしパクりでも)秀逸な「Losin‘ Time」で着火しそうだったんだけど、たとえば音楽的には同傾向のバンドであるブラック・マウンテン(この日メイン・ステージでプレイしていたが、昨年のポーティスヘッドATP出演時に満足したので今回はパス)みたいにバンドの内部で燃えている炎が観客にまで伝わってこなかったのは物足りなくも残念。それじゃ自己完結に終わっちゃうわけだし、本当に観客とコミュニケートしたいのならもっとツアーした方がいいのでは?と思う。
その対極と言えるオープン・アップ&ブリードなライヴを展開してあっぱれだったのが、LAアングラ・アート・パンクの刺客ノー・エイジ。LAダウン・タウンにおいてブルックリン的アート・コミュニティを形成していることでも注目される、アート・スペース=The Smellの看板アクトでもある彼らは、ファット・キャット、サブ・ポップとインディ名門を渡り歩いてきたドラムとギターのふたり組。EPをコンパイルした昨年の「Weird Ripper」(ちなみに、このジャケに写る建物がThe Smellです)を聴いた時点では1曲1曲がとっちらかり過ぎで作品としてのまとまりがない・・・という印象も受けたが、ほぼMCなしでメドレーのように間髪入れず突き進むライヴの形で聴くと、その「すべて一緒くた」のノイズ・アマルガム的勢いが抜群に気持ちいいことが判明。ハスカー・デューのブレイク・ネックなスピードとGBVのポップ・センス~90年代USギター・サイケ勢のトリップ感(フレーミング・リップス・・・というよりも、むしろGlueとかSixteen Deluxeあたりを思わせるB級でやんちゃなあちゃらけ感覚)など、USローファイ・ロックの美味しいところからの影響が連発する様にはやはり興奮せずにいられなかった。満を持してのサブ・ポップ・デビュー・アルバム「Nouns」ではトータルなまとまりも聴かせているが、この無邪気な暴れん坊ぶりをどこかに維持したまま続けていってほしいもの。
おかげですっかり同時間帯メイン・ステージ出演のホールド・ステディを見逃すことにもなったが(口髭がダンディなキーボード・プレイヤーは何度か通路で見かけましたが)、この後に控えるミート・パペッツ復活をちゃんと見れるステージ前方をキープするためには致し方なし(=ホールド・ステディはまたイギリスにツアーしに来るだろうが、カークウッド兄弟はいつ再び観れるか分からない)!基本ヤングな層が占めるATPとは思えないほど場内オーディエンスもいつの間にか年配な男性度(40代かな)を増していて、「ミートヘッズ」の静かな熱気がじわじわ肌に伝ってくるよう。たぶん、このバンドの久々の英国上陸&兄弟揃い踏みを観るためだけにATPにやって来たダイハード・ファンも混じっていたんじゃないかと思う。それくらい80年代USハードコア・パンク~インディ黎明期のカルト・アイコンとしてリスペクトされ、若いロック・ファンの間でも「ニルヴァーナのカート・コバーンが溺愛したバンドのひとつ」として認知されている彼らだが、大喝采に包まれて始まったその演奏は(ぼうぼうに伸びたカーリー長髪をポニーテールにきりりとまとめていたカート&クリス同様)恐ろしくシャープ。予習として(笑)「Live in Montana」を聴いてきたのだが、あの録音から20年経った今もこのバンドの放射するエネルギーは変わっていない――というか、それだけ当時から迷いなく自分達のアートを追求していたのだろう。
カントリーやブルース、ブルーグラスを咀嚼したリズミックでプライマルなオーガニック・グルーヴをプログレ・バンド並みの精度で叩き出し力強くジャムっていく様に、ギター/ベース/ドラムの繰り出す完璧なハーモニーに、クリスが浮かべる邪気のない笑顔とファンキィなベース・ラインに、こっちの体温もぐいぐい上昇。3曲目でベース・アンプがダメになるハプニングも飛び出したが、まったく意に介さず演奏を続けていくカートのプロで職人なたたずまいもかっこよかったし、と同時にその飼い慣らされない大らかで天然なミュージシャンぶりになぜかブリーダーズのキム&ケリー姉妹が頭に思い浮かんでちょっと涙もこぼれた(そういう「無防備な」ミュージシャンほど、ドラッグやアルコールに蝕まれてしまうことが多いので)。代表曲を多く含む「Meat PuppetsⅡ」からの楽曲はやはりリアクションが大きかったが、ジョニー・キャッシュのカヴァー、「Up On The Sun」などが個人的にはしみたし、(ブラック・サバスではなく)ビートルズ「Tomorrow Never Knows」をメドレーで間に挟む茶目っ気も含め、パンクなエネルギーとド迫力なプレイヤビリティでいくつもの音楽ジャンルを悠々横断していく様は圧巻だった。フィナーレはブルドーザー級のぶっといサウンドで3人が一丸となって炎上したジャム・インスト。集客では他のアクトの方が勝ったかもしれないけど、今回のATPでもっとも熱くエモーショナルな喝采が送られたライヴだったと思うし、筆者が同行したルーム・メイト全員が「いいライヴだった!」と意見の一致をみたのもミート・パペッツだけだった――というわけで、最終日にふさわしい大団円を気分的に早くも迎えてしまい、締めに観るつもりだったハルモニアはパスしました(ちょっと観たんだけど、去年クラスターとして2人でやったライヴの時とさほど変わらなかった&あれ以上に音がアンビエントだったので途中でマジに眠くなってきた)。
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